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昨年末にイタリアの4つの地方銀行がEUの「ベイルイン」制度下で救済された。今年に入って、イタリアの金融機関の破綻危機は深刻化、政府はEU規則に反して、公的資金による救済を実施する決断を出した。
イタリアで総資産第12位のバンカ・ディ・ヴェチェンソァと第16位のヴェネト銀行は6月に、不良債権処理を行うために4月に設立された救済基金である「アトランテ」を通じて救済資金を受けた。そのため当初から、不十分と指摘された42.5億ユーロの救済基金は、ほぼ使い果たされた状況である。
金融機関の破綻危機が高まっているなか、イタリア政府は6月27日に銀行救済に400億ユーロの公的資金注入を検討していることを発表した。しかし、ドイツのメルケル首相は今年から発動している「ベイルイン」制度下では、公的資金注入はEUの銀行の再生・破綻処理指令に違反すると警告した。「ベイルイン」制度下では公的資金注入の前に、株主、債権者、預金者が銀行救済を負担することになっている。EU規則に従って、各国政府は自国の銀行救済策を決めることはできないのである。
EUに無視されたメルケル
しかし、メルケル首相の認識がないところで、欧州委員会(EC)は6月26日にイタリアに対して、EU規則の6ヶ月間の適用停止と最大1,500億ユーロ(約17兆円)の政府保証を提供する内容の救済策を承認していたことが判明した。イタリア政府が流動性支援プログラムとして、「危機的な状況に適用される政府補助」の特別規定に元づいて、破綻の可能性が高い、破綻しつつある、清算が必要となる銀行を対象に、公的資金による救済を行うことが可能となったのである。銀行の資本強化を果たすだけでなく、投資家や預金者の間でのパニック、銀行での取り付け騒ぎの拡大を阻止するためでもある。
イタリアの決断
それでも予想以上の深刻な状況に発展している金融機関に対し、レンツィ首相は3日には、EU規則を無視してでも、政府は必要な限りの救済資金を提供する考えを示した。EU規則に従うより、自国の金融システムの崩壊を阻止するための公的資金による救済を選択したのである。
この決断は、今後EUのなかで、波紋を呼ぶことになる。場合によっては、イタリアのEU離脱の可能性も高くなった。また、EUのなかで、イタリアと同様の銀行破綻危機にあるスペインやポルトガルの今後の反応が注目される。EUの崩壊要因の一つになりかねない状況になる可能性もある。
問題はイタリアの銀行が抱えている総額3,600億ユーロの不良債権である。銀行が抱えている不良債権が貸出に占める比率が平均して18%と高く、全ての銀行が破綻しつつあるといっても過言ではない状況にある。銀行の収益性の低迷、今年に入って続く銀行株の下落、株価下落で時価総額が50%以上も減少、増加する不良債権などが銀行破綻の危機を深刻化している。
世界第8位の経済大国であるイタリアの金融機関が破綻すれば、世界の金融システムの崩壊に繋がる規模の連鎖的影響が起きることから、EUの対応が注目される。