英国国民投票やり直しの直訴に署名が230万

26.06.2016

Photo: NBC News

 

 623日のEU離脱をめぐる英国の国民投票の結果に不満を持つ人々が再投票を求めている。すでに直訴に230万人以上の署名が集まる一方、来週に予定されている議会の動向に注目が集まっている。直訴の代表であるウイリアム・ヒーリー氏の主張は、「投票率が75%以下で、国民の支持が60%以上でないため、総意と言えない」というものである。

 

 しかし昨年の総選挙の投票率は66.1%であったし、国民投票に際して数値的な条件は決まっていなかった。この直訴が受け入れるならば選挙結果に満足できなければ、規則を変えてやり直しするという民主主義の原理が脅かされる。

一方、キャメロン首相の恩師である英国憲法学者のヴァーノン・ボダナー教授によれば、キャメロン首相(政府)は国民投票の結果を尊重しEUもそれを認めたため英国が再復帰を求めても交渉に応じる可能性は低く、再び国民投票を行うのは現実的でないとしている。主流派政党内部でもEU離脱に関して統一がとれないため政局にならないため議会でも混乱が予想される。

 

 選挙管理委員会によれば、623日の投票では51.9%に相当する1,740万票が離脱に賛成、EU残留が48.1%となる1,610万票で投票率は72.2%であった。このため直訴は75%以上の投票率と60%以上の賛成多数が必要だという規則を付け加えるべきだとしている。

 

 

 23日の投票結果が確定してから直訴に24時間で230万人の署名が集まったことはEU残留派の強い衝撃の結果である。何れにしても直訴が100万人以上の署名で議会に持ち込まれることになっているため、来週から予定されている議会に直訴の処置が議論されることになる。

 

 重要な点は国民投票結果には法的拘束がないため、英政府が国民投票の離脱結果を支持するかどうかを決める。実際、キャメロン首相は国民投票の結果を尊重しEU離脱を表明している。政府が国民投票の離脱結果を支持する場合は、EU理事会に対して、正式に英国のEU離脱を通告し、EU離脱に向けての脱退とEUとの新たな関係の枠組みの協定交渉に入るのが手順である。EU6カ国も英国離脱の政治・経済の混乱を早期に収拾したい考えで、英国に離脱に伴うこの交渉を促している。

 

 

 しかし議会では圧倒的にEU残留派が多数勢力であるため、国民投票の結果の解釈をめぐって混乱が予想される。国民投票の結果を尊重して政府が離脱を決めても議会の混乱は避けられない。また今回の国民投票をきっかけにスコットランドの英国から独立運動が高まり英国の分裂につながるリスクも増大している(下図)。

 

 

 EU離脱に関する国民投票は1975年から地域別の支持率が大きく変化している。特に北部(スコットランド)の残留支持が増えたことと、南部で強かった残留支持が激減した。南部はドーバー海峡を隔てて、欧州移民労働者が移住したことが影響している。

 

 今回の直訴の取り扱いが議会の論争の焦点となることは必至である。しかし離脱に関する賛成票と反対票は拮抗しているため、再投票で決着がつくとも限らない。また直訴の署名した人たちの多くがEU残留で恩恵を受ける都市部の富裕層と欧州からの低賃金労働者であることから、利益相反の片方を優遇することになりかねない。英国の分裂が危惧されるが、後追いの離脱が続けば分裂の危機リスクはEUに及ぶ。議会政治発祥の英国が「国家の重み」と向き合うことで、「民主主義」の原点に立ち返ることになったことは皮肉な結果である。