量子スピン液体の確認に成功

05.04.2016

Photo: sciencedaily

 

1973年にアンダーソンが提案した「量子スピン液体状態」(注1)を持つ物質が見つかり、これまで幾つかの系(注2)でその存在が垣間見られてきた無秩序のスピン状態が中性子散乱で確認された。キャベンデイッシュ研究所とマックスプランク研究所の共同研究チームはRuCl3結晶に中性子を照射することにより、スピン配列が液体のように無秩序化することを中性子散乱実験で明らかにした。

 

RuCl3の磁気励起の異常な振る舞いはラマン散乱の研究(PRL 114, 147201 (2015).)で報告されている。Heisenberg-Kitaevモデルで記述される量子スピン液体の基底状態に近いことが示唆されていた。

 

(注1)通常の磁性体は固体の結晶で、物質を構成する個々の粒子の磁気方向が秩序をもっているが、量子スピン液体では低温でもスピン配列が秩序化されずに絶えず変動しており、あたかも液体中の分子のように振舞う。

 

(注2MITの研究チームがカゴメ状の結晶格子を持つZnCu3(OD)6Cl2という結晶で分数量子数を持つスピノン励起を中性子散乱で観察し、低温でスピン励起が秩序化されていない証拠である、結晶内の連続的な分布を示したことを見出した。このほかにも分子性結晶にX線を照射して乱れを導入することによって量子スピン液体が出現する報告などがある。

 

 

Photo: Univ. of Edinburgh

 

中性子散乱実験はオークリッジ国立研究所の中性子実験装置を用いて行われた。量子スピン液体状態はそれ自身、これまで磁性体の「第三の状態」と考えられてきたもので、理論的な予測が検証されたことの意義が深いばかりでなく、量子計算機の研究を加速する画期的な成果である。

 

結果として生じる「マヨナラフェルミオン」(注3)が量子計算機実現の上で重要なためである。今回の実験によって単純な組成・構造の無機結晶で量子スピン液体状態が2D物質で見出されたことで、大きく進展することとなった。

 

(注3)マヨラナが考えた電気的に中性な素粒子を記述する新しいフェルミオンでトポロジカル超伝導の表面に形成される。この時に起こるボーズ統計から非可換統計への変化が量子計算の動作原理に応用できると考えられている。

 

 

 

Image: joint quantum institute