Source: Scientific Reports 4 5497 (2014)
すでにICチップの実装密度はスケーリング則から外れムーアの法則の破綻が顕著となったが、グラフェンに代表される2次元半導体材料は高い電子輸送特性から将来の超高速素子として期待されている。グラフェンなどのトポロジカル絶縁体材料のナノデバイスでムーアの法則の破綻を遅らせることができるかもしれない。
トポロジカル絶縁体は内部は絶縁体でありながら特定(グラフェンなど2次元系では端)の部分のみが金属的な性質を示す(注1)。グラフェンは1原子層の厚みの炭素鎖で、面内ではギャップが無いセミメタルである。このため面内の伝導特性にすぐれている一方、半導体特性が必要な応用は限られていた。最近の研究によれば、グラフェン並みの数原子層のInSe結晶はエネルギーギャップをもつシリコンより優れた半導体であることが明らかになった。
(注1)物理的にはフェルミ面近傍に特殊な形(二次元系では円錐形)のデイラックバンドが存在する。量子ホール効果がトポロジーに依存することで移動ドの異方性が出現する。
マンチェスター大学の研究グループは数原子層のInSe超薄膜が高速演算素子の半導体材料となることを示した(下図)。
Source: Nature Nanotechnology Aug. 2016
マンチェスター大学の研究チームは弱点であったInSe結晶の高品質化に成功しシリコンを上回る室温移動度が2,000cm2/Vsの超薄膜を得た。InSe超薄膜は空気中の酸素と水によって劣化するため、成長後に表面をBNで被覆することにより、安定に動作させホール効果で移動度を計測することに成功した。
研究チームは大面積グラフェンシートを作成するプロセスを用いて、デバイス用の膜成長が可能であるとしている。近年のダイアモンドデバイスやグラフェンデバイスの発展には気相成長法(CVD)による数原子層の高品位結晶が成長できるようになったことが大きく寄与している。下にMO(Meta Organic)-CVDによるGaAs化合物半導体の原子層エピタキシーの模式図を示す。
Source: archive.cnx
GaAs、InGaAs、InGaAsPなどの化合物半導体の気相成長技術はNTT、富士通などで積極的に研究開発が行われ、高品位化合物半導体は宇宙用などニッチデバイスにおいて日本の半導体技術のポテンシャルを示したが、コスト高のため汎用デバイスには至らなかった。
トポロジカル絶縁体という衣をまとって再びCVD成長による2次元系薄膜デバイスが注目を集めることとなった。
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