ドローンタンカーで挑むチョークポイント

Mar. 31, 2015

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界中の原油消費国へ生産国から原油を送り届けるオイルロードには陸上輸送と海上輸送ルートが存在する。海上輸送においてオイルロードのネックとなる数少ないリスクが高い地点をチョークポイントという。ロールスロイス社ではチョークポイントの危険をなくして無人のドローンタンカーで安全に原油輸送する計画を立てている。


 なおロールス社は一般のカーゴシップのドローン化という構想の中に位置づけている。軍用機から出発したドローンは自動操縦車や船の世界にまで広がりをみせている。世界の貨物輸送は90%が海上輸送である。ドローンシップは艦橋や船室をなくしゅことで燃費が10%以上向上する一方で、輸送費用の44%を占める船員の給与が不要となれば、輸送経費の大幅カットにつながる。(船員雇用問題で組合闘争が予想されるが)


 先に「世界最大の船」という記事をかいたが、オイルタンカーのサイズが何で決まるか知る人は少ない。タンカーサイズはチョークポイントで決まる。チョークというのはChokeで文字通り、喉を絞める、という意味でチョークポイントはタンカーの運行に最も危険な水域である。


 

チョークポイントの脅威

 船舶の運航の上でチョークポイント水域には1)運河・海峡巾、2)運河・海底の深さ、3)潮流及び天候に加えて、4)海賊、5)テロ攻撃、6)政治的不安(海峡封鎖)などのリスクがある。世界の原油生産量の1/2は海上輸送に頼っているため、チョークポイントの持つこれらのリスクが現実になれば、世界のエネルギー安全保障に多大な影響を及ぼす。

 

 世界のチョークポイントは次の8カ所が知られている。①スエズ運河、②パナマ運河、③ホルムズ海峡、④マンダブ海峡、⑤マラッカ海峡、⑥ボスポラス海峡、⑦カテカット海峡、⑧スカゲラック海峡である。このなかで大型タンカーのサイズを規定しているのは①と②でそれぞれ運行最大サイズをPanamax、Suezmaxと呼び、6-8万tで50万バレル積載、12-20万tで100万バレル積載能力のものを指す。

 

 さらに大型化したタンカーをULCC (Ultra Large Crude Oil Carrier)、VLCC(Very Large Crude Oil Carrier)と呼ぶ。VLCCは20-32万tクラス、ULCCはそれ以上の区分となるが、サイズが大きくなるとチョークポイント通過の制限が厳しくなり一部は迂回路が必要になる。写真はホルムズ海峡を警備する艦艇。米軍はバーレーンを基地として空母を配備しているが、タンカーの全てを護衛することは不可能だ。

 

 


中東のチョークポイント

 北向けのルートの関所といえるスエズ運河を通れるのはSuezmaxクラスタンカーまでとなる。中東から南向きすなわち中東から日本への原油輸送はペルシャ湾とアラビア海をつなぐホルムズ海峡が中心で、海峡の両側はイランとオマーンである。世界的にもホルムズ海峡は最も影響力の高いチョークポイントで、2011年度には世界の原油取引の20%にあたる1700万バレル/日が通過した(JPECレポート2011)。日本向けの原油の75%がホルムズ海峡経由となるため、ここの安全がエネルギー安全保障のネックといえる。

 

 マンダブ海峡は紅海とアラビア海をつなぐ海峡で、ここを通る原油はホルムズ海峡を通る原油量の約1/5である。海峡巾が極端に狭く空爆ともに内戦状態に陥ったイエメンに隣接する危険水域である。マンダブ海峡を経由する日本向けの原油輸送は少ないものの、欧州向けの北に向かうルートとアラビア海にでてアジアに向かうふたつのルートに影響するため、イエメンの内戦状態が続けば混乱が生じる。世界をつなぐオイルロードは危険回避の迂回路が考慮されているが、長期に渡る封鎖では原油価格の暴騰が懸念されるからだ。

 

 

 ホルムズ海峡を抜けてもさらにインド洋と南シナ海をつなぐマラッカ海峡が待ち受ける。マラッカ海峡は水深が浅いためVLCCは積載制限を受け、ULCCは通ることができずに、迂回を余儀なくされる。ULCCはボルネオ沖のロンボク海峡を抜けるが、今度は海賊の乗っ取りリスクが増える。結局、日本の原油輸入は80%が中東に依存していて、中でも輸入総量の55%を占めるサウジアラビアとUAEへの過度の依存が高い。原油輸入の偏りはいざというときに足下をみられる。その意味でチョークポイントとは別にリスクも存在する。

 

中東依存が問題

 チョークポイントのリスクは最近の中東情勢の混乱によって(マンダブ、ホルムズの両方とも)現実化し緊迫している。中東からの海上輸送ルートは日本のエネルギー安全保障の上で極めて重要な時代にはいった。もうひとつ考えておくことがある。311以来原発停止の穴を埋めたのは火力で、そのため燃料費調達費が年間3.6兆円にも達した。

 

 これからのエネルギーミックス最適化では石油火力を減らすことが温室ガス排出の点で望ましい。原子力比率下限20%という方向に向けて再稼働が近づいているが、エネルギー安全保障という普段は気にすることがない観点からみれば、中東に依存しない原子力は資源の乏しい国が過去に考えた決断であったのだろう。しかし現在は再生可能エネルギーの利用、EVや燃料電池車により石油依存をなくす方向に社会は動き出した。中東依存を解消する抜本的な方法は脱石油かも知れない。賢いエネルギーミックスを長期的展望にたって考えるべき時が来た。