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アジアインフラ投資銀行(AIIB)構想を習近平国家主席が提案したのは2013年10月2日のAPECであった。3週間後の24日には中国の他、インド、シンガポールなど21カ国によって設立が決まった。その後日米の不参加国をむしろ例外として欧州諸国とBRICSを取り込み40カ国を超える参加国で順風満帆の出発に思えた。
実際には日本が主導するアジア開発銀行(ADB)が存在するなかで新たな投資銀行をつくる理由は何か、経済評論家の様々な意見があるが、名前にあるアジアのインフラとは一体何かを考えると、狙いと具体的な戦略がみえてくる。
アジアの高速鉄道計画が具体的なアジアインフラの代表である。アジア高速鉄道はそう路線距離1万kmに及ぶ壮大な構想である。高速鉄道の集客率が投資資金の回収に直接影響することは台湾新幹線の破綻問題で明らかなように、成否を決める重要な因子だが路線はいずれも人口密度の高い地域である。
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図のようにインド、ベトナム半島、マレーシア、シンガポール、インドネシアにまたがる路線であるが、いよいよ実現に向けて具体的な建設計画がスタートした。
マレーシアとシンガポールを結ぶ路線は入札が2016年に予定されており、インドムンバイからアーメダバードまでの路線は2017年から6年間で建設することとなった。
インド路線
インド路線は505.8kmを営業速度320km、2時間7分で結ばれる。建設期間6年間の総事業費は1兆9000億円、開業から13年目で黒字化の予測である。これまでにTGV技術を持つフランス、中国と日本の新幹線が売り込みをかけている。
中国新幹線の強みは長距離路線におけるコストである。インド政府の基本方針は日本の新幹線である。そのため日本と共同で2013年から共同事業調査を行いこのほど調査結果をまとめた。
調査結果の内容は各車両に動力を分配する方式、(これによってTGVは除外)、および日本式の信号システムを推奨している。
調査結果によって日本の新幹線システムの輸入となる確率が高くなった。中国新幹線は車両が日本のものとそっくりであるが制御システムの脆弱性が事故で露呈し安全性の面で信頼性を落とすこととなった。日本の新幹線をインドが採用することは確実とみられている。
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マレーシアーシンガポール路線
2016年秋に入札が予定されているマレーシア-シンガポール路線は350km、総工費1兆3000億円。インドにやや遅れて2020年の開業を予定している。入札に参加が予定されているのは中国、フランス、日本、スペイン。
事業を管轄する当局や政府は採用国をまだ未決定だが日本は国土交通相が担当するJR東日本、住友商事、三菱重工幹部を引き連れて熱心な売り込み活動を行っている。
中国新幹線の強みは長距離路線で差がつく路線距離あたりのコストである。その意味で今回の520km(インド)、350km(マレーシア-シンガポール)は日本に有利。細かい自動制御で数分間隔で列車運行を正確に運用できるという点では強みがあり、問題は建設資金の工面とインドでは13年後を予定する黒字化タイミングとなる。
懸念される技術と融資のセット売り込み
問題は前者に対して建設と融資を中国がセットで売り込むことである。AIIBからすれば利益の出る事業としてアジア高速鉄道は関心があるだろう。今回の路線は現状では独立性が高いが、1万kmのアジア高速鉄道網が真価を示すには路線が統一された規格を持ち、将来はネットワークとなることが必要である。
この意味で最初の路線をとる国が将来の路線でも有利となる。AIIBとADBにも競争が予想される。今後も続く世界各国の高速鉄道への売り込みには技術と融資の両方を考慮する必要性があるのではないだろうか。