Photo: The Rosetta Project
1996年に創設されたロングナウ財団(The Long Now Foundation)という財団の使命は地球上の言語で文明を記述するという壮大な計画である。骨子となるのはThe Rosetta Projectと呼ぶ言語データベースをロゼッタデイスクという媒体に収めるもの。
ロゼッタストーンは760kgの石にヒエログラフを含む3つの言語で古代エジップ期のプトレマイオス5世の出した勅令が刻まれたもの。これをきっかけにヒエログラフが解読され、他のエジプト語の文書が読み解かれたことはよく知られている。
ロゼッタデイスク
ロングングナウ財団の説明ではロゼッタデイスクは写真のように手のひらに乗る小型であるが、1,500以上の言語の文書を13,000ページ分記録することができる。デイスクはエッチング後にニッケル電着された100nmの溝で情報が書き込まれる。
1ページの情報は対角400ミクロンのスペースに書き込まれる。興味深いのは650倍光学顕微鏡で読み取ることができる点。昔米国では情報をマイクロフイルムに落として拡大鏡で読み取っていたが、ロゼッタストーンは縮小率を上げたものである。1万ドルを寄付してロングナウ財団の終身会員になるとロゼッタデイスクが手に入る。
概念的にはデジタル書き込みでなくマイクロ文字として書き込むロゼッタストーンと同じところが斬新である。というのもデジタルデイスクには読み出し、書き込みのフォーマットが既知であることと、読み出しハード、デイスクの保存されていることが条件であるからだ。
フロッピーデイスクや磁気テープに記録された情報を読み取ることが難しくなってきた。ハードやドライバソフトなどが完全に消え去ったからである。
デジタル版ロゼッタデイスク
2009年のVLSI会議において慶応大学、シャープ、京都大学の研究者がデジタル版ロゼッタデイスクに関する発表を行った。ここではROMに書き込まれた情報をSiO2で覆い重ねることで集積度を高める。読み出しのための電力と読み出しはワイアレスで行うことができる。
Photo: The Rosetta Project
この方法の利点は情報量だが果たして1,000年後の人類がこのデイスクを見出したとしても、読み出すことができるかどうかが問題である。
現在はクラウド全盛。確かに個人で複数媒体にセーブした文書情報を守るのに役立っている。クラウドの裏方はデータセンターである。データセンターは巨大化し大量の電力を消費するがテロ攻撃対象になったり、災害時に機能が維持できるかは完全とはいえない。
Photo: Advanced Solutions
いまのところロングナウ財団では光学式記録にこだわりデジタル版を採用するつもりはない。しかし記録する文書が増えれば現在の縮尺率でも限界があるので、多層化やデジタル版への移行を考えるだろう。
核廃棄物を何万年にわたり保管するオンカロでも未来の人類に情報をどのように伝達するか頭を悩ましている。案外、縮小率が低くして虫眼鏡でにれる使い方をイメージで表現した”How to”デイスクが役立つかもしれない。