先週ドイツ国民にとって、驚く事が隣国で起きた。ドイツが試みて失敗した金回収をオランダが実行したのである。ニューヨーク連銀に保管している金を本国に移管したオランダの動きは、他の国にも連鎖する可能性が高い。
オランダの中央銀行は、世界的な景気後退や債務状況の悪化に対する国民の懸念に応えて、海外に預けている金を回収、オランダの本国での金保有高を引き上げる政策をとった。オランダの612.5 トンの金準備高のうち、本国に保有しているのはわずか11%に過ぎない。大半の金は海外に保管しているが、保管している国の打ち分けは、51%はニューヨーク連銀、20%はカナダ、18%はイギリスである。オランダはニューヨーク連銀から122トンの金を回収、本国の保有残高を31%に上げた。
回収に失敗したドイツ
ドイツ人にとって、オランダの件は不快な話に違いない。なぜなら、2年前からドイツはニューヨーク連銀に保管している金を回収できていないからである。ドイツは世界弟2位の金保有国であるが、その3分の2は海外に保管し、そのうち45%はニューヨーク連銀に預けている。
冷戦時にソ連が侵攻してドイツの金が奪われる恐れから、ドイツは海外の銀行に金を預けた。しかし、リーマン・ショック後、世論は本国への移管を望んできた。世論の圧力からドイツ連銀は回収に動いたが、ニューヨーク連銀はアメリカに保管した方が安全と説得し引き上げ要請に応じなかった。そこで金の在庫確認を要求したら、ニューヨーク連銀は「適切に管理している」ため、その必要はないと書類で回答した。
ドイツはこれを受けて自国の所有する金の、数量や品質を確認できないとして懸念を表明した。最終的には、全額返還を求めたが、アメリカは7年かけて300トンの返還しか応じなかった。しかし最初の返還となった今年には、わずか5トンしか受け取れなかった。ニューヨーク連銀は、ロジスティック上の問題で、多額な金を一度に輸送できないと説明した。
さらなに疑惑を呼んだことは、受け取った金にドイツが保管したはずのドイツ連銀の国印がなかったことである。つまり、返還された金は預けた金ではなかったのである。ニューヨーク連銀にはドイツが保有する金はあるのかが疑問視された。
フォートノックスの疑惑
アメリカ議会にも有名な金の保管場所であるフォートノックスの金の在庫を確認しようとする議員がいた。これまで何度か要求したがいずれも「適切に保管されているのでその必要はありません。」と体よく拒否されている。
偽物をつかまされた中国
中国はアメリカから金を大量に移送したが、フォートノックスからの積み荷の金はタングステンであった事件があった。タングステンは金と密度が一致するので、重量で見分けることは原理的にできない。真相は不明であるがこの事件以来フォートノックスにあると称している金はタングステンにすりかわっていると考えるアメリカ国民が多い。
次はフランス
フランスの極右国民戦線の党首で時期フランス首相とも言われているマリーヌ・ル・ペンは、24日フランス銀行にフランスが保有する金の移管を要求したことを発表した。フランスが保有する金準備高の会計検査を実施、外国に預けている全ての金を回収、金の売却の停止、フランスの外貨準備の20%まで、金を購入することなどを要求した。
ベネスエラが最初
2011年にウゴ・チャベス大統領は、本国の金保有高を高めるため、外国で保管しているベネスエラの金の大部分を本国へ移管した。これまで、米国に預けている金を移管することは考えられないことであった。当時、世界の金融市場を支配するアメリカに逆らったことで、チャベスはベネスエラだけでなく、中南米で英雄となった。このことから金を回収する国の連鎖が始まった。
金準備には重要な意味と機能がある。アメリカ、ユーロ、中国、日本が金融緩和政策を進めるごとに、通貨の価値が低下し、通貨に対する信用リスクが高まる。金を保有することの重要性は通貨に信頼を与え、いつでも外貨と交換できる機能をそなえている点にある。
世界的に景気後退が進むなか、欧州だけでなく、外国特にアメリカに保管している金を自国への移管する国が増えていくことになるであろう。