リコール体質の起源

Dec. 4, 2015

 

 米国コンシューマーリポートが発表した2013年の自動車信頼度調査の結果(米国コンシューマーリポートの自動車の信頼性ランキング)からレクサスとトヨタブランドがそれぞれ1位と2位を占めたのをはじめ、セグメント別の評価でも最も多くのモデルが1位を占めた。


 確かに北米で”HOV”とよばれるカープールレーンはサンデル教授によると富裕層は料金を払えば一人乗車でも使えるため、皮肉を込めて「レクサスレーン」と呼んでいるそうだ。レクサス=高級車=富裕層というイメージが定着したといえる。しかし驚くべきことに、国内リコールの発生率は裏腹の結果をみせているのだ。

 


トヨタ車のリコール率急上昇の謎

 トヨタ車のリコール率(リコール台数を販売台数で割った数値)は2000年までは極めて低い1%台であった。これは品質の良い車を販売するイメージを日本車に与えるのに十分な統計であり、購買者は満足のいく車を手にすることができた時代であった。


 しかし2001年から急激にリコール率が増大していき、2004年には100%を超えた。すなわち販売台数よりもリコール車の方が多い、という異常事態である。リコールが多いというのは(ないに越したことはないが)一方で、複雑化した車の膨大な部品数(注)に不良箇所をみつけた場合に、いち早く無償で交換するという顧客優先の経営態度ともとれる。


(注)車の部品数は一般的には2-3万個である。これらの品質管理を徹底することの難しさは想像に難くない。

 


タカタのエアバッグリコール

 タカタのリコール問題は現代の自動車産業の問題点を浮き彫りにした。まず生命を預けるエアバッグに、コストの安い部品を国内外のメーカーが採用したため、一社の不祥事が国境を越えてメーカー各社に及んだ。今回のエアバッグの連続死傷事故に対するタカタの企業態度は疑問の点が多い。思い出されるのはトヨタバッシングに発展したトヨタ車急発進事件である。結局、急発進の原因は車の欠陥(電子制御ソフト)ではなく運転者の不注意であることがわかったが、事故に繋がるとしてフロアマットとアクセルの干渉を避けるための大規模リコール(2009-2010)となった。この時は運輸省交通局の調査により公正な判断がなされ、トヨタ車の信頼が失われることは避けられた。

 


公聴会でタカタの態度

 今回のタカタの問題では米道路交通安全局の「助手席エアバッグの破裂についてはあらゆるデータが高温多湿地域との関連を示している」判断を根拠に、タカタとメーカーの一部(ホンダ)はリコールを高温多湿地域に限定するとしている。 その後、ホンダは全米リコールに同意した。



 全米のリコールを求めた公聴会でタカタは、最初言明をさけ結局これを拒否したことが非難にさらされている。一方、トヨタは先の急発進の嫌疑を晴らした経験のためか、第三者機関が公正に調査を行い、メーカーはこれを尊重したリコールを行うことを提案している。タカタの幹部は立ち振る舞いが下手だ。公聴会では「我が社は公正な調査を提案し、全米リコールをするかどうかはその結果に従う」といえばよかった。

 


2001年に何があったのか

 トヨタのリコール率が2001年から2004年で何故、100倍に増えたのだろうか。2001年に何があったのかを知ることで何か原因がわかるかもしれない。2000年からIT不況が世界を襲った。各分野で生産合理化が進み、自動車産業においては現地生産が加速した。国内自動車メーカーは輸出を抑えるために現地生産に舵を切り1993年には、トヨタの北米販売に占める現地生産車の比率は45%となった。

 

 国内にあっては2001年は小泉内閣がスタートした年で、2006年までの政権時期とリコール率の増大時期は重なる。2001年から2004年の間には「構造改革」(注)の名の下に、強引な米国流の生産性の改善が実行された。今回のタカタの不良品エアバッグはメキシコ工場の製品であった。コスト優先の採算性の負の報酬がリコール率に反映されただけなのかも知れない。同時に我々は大切な日本の誇りも失った。


(注)この時期に国民一人当たりGDPは世界5位から12位へと後退し、国債と借り入れ金は380兆円から588兆円に膨らんだ。