ホンダのリコールラッシュ
ホンダのリコールラッシュが今年になって顕著である。2014年度だけでも以下のように枚挙にいとまがない。
11.3 ザッツ エアバッグ
11.13 フイット アリア エアバッグ
10.23 N-BOX、N-one エンジン制御ソフト
8.28 CRV エアバッグ
7.10 フイット、VEZEL エンジン制御ソフト
6.23 エレメレント エアバッグ
6.23 フィット アリア エアバッグ
6.23 旧型フイットなど10車種 エアバッグ
2.27 N-Box 乗降ステップ
2.10 フイット、VEZEL トランスミッション
2013.10にフイットのリコールが2件あることを考慮すると、同じ車種であるフイットに1年で7回のリコールが発生している。また同じシャーシのVEZELに不具合が共有されているのは仕方がないとしても、1年のリコール回数が12件で内、7件がフイット関連に発生しており、2件がN-BOX、CRVベース車(CRV、エレメント)2件、残る1件は生産を終了した軽(ザッツ)である。
主力車種にリコール
こうしてみると常習犯ともいえるのはフイットベース車であることは否定できない。フイットとはどういう車なのか。ずばり売れ筋である。2013年モデルは3世代目にあたり、日産マーチ、トヨタヴイッツに対抗するコンパクトカーとして2001年に登場した。小型で取り回しが良い割にはホンダ独自の燃料タンクをフロントシート下部に配置したレイアウトで広い室内は人気があり、低燃費性能が販売に拍車をかけた。順調な販売が続き2002年にはついにトヨタカローラを抜いて国内販売台数トップに躍り出た。
海外販売も好調で2013年のフルモデルチェンジではパワートレインとシャーシを新設計とし、デザイン一新と同時に中身も全て新しい設計となった。シャーシやパワートレインの変更は設計を一から行うのと同じ労力が必要となるため、技術にとってはやりがいのある仕事で、改良を積み重ねるマイナーチェンジとは本質的に異なる。
新しいコンセプトで車を設計する時には自由度がある。しかし売れ筋、それも国内販売トップを担う車を、これまでの顧客の要求を満たしつつ新しい顧客も取り込む必要がある。この重圧は相当なもので例えばトヨタでいえばクラウンやプリウスなど世代を重ねて来た主力車種のフルモデルチェンジは失敗が許されない。
タカタのエアバッグに欠陥
製造国は国内の他、メキシコ、タイであるが、今回のリコールは全車種共通なので国外生産によるものではない。内容をみると1年間の12件の内、6件がエアバッグ、エンジン制御ソフトが(昨年の2件を含めて)4件、トランスミッション、取り付け不良が1件づつであった。エアバッグとエンジン制御ソフトに注目してもう少し調べてみよう。
エアバッグの異常は部品供給メーカーのタカタのリコールであり、上院公聴会やNYタイムズの欠陥隠滅報道で知られることとなった。その影響は一車種どころの問題ではなく、メーカーを越えて被害が拡大した。トヨタは7車種計22万台のリコールを発表したばかりだが、ホンダのリコール6件もこのためである。
エアバッグが作動した際にエアバッグを膨らませるガス発生剤の処理に問題があり、金属容器が壊れてその破片が飛び出したり、最悪では出火したりする恐れがある。すでにホンダ、トヨタ、日産、マツダで世界で294万台のリコールとなったが、米国のリコール勧告対象車は780万台となるという。
こうなるとタカタの問題というより国益に関わる重要な案件といわざるを得ない。リコールがこのような天文学的な数になれば、消費者は当然、安全に関わるこの問題を見過ごさないだろう。結果は日本車バッシングである。思ってもみなかったデトロイト復興の材料を提供したのだ。
社会的責任
米国では破損した金属片がもとで4名の死者を出した。このため責任の所在が問われているがいまだにタカタCEOは雲隠れしたまま姿をみせていない。タカタのこうした態度には国益を損なうほどの大事件を引き起こしたという自覚がみられない。部材としてのエアバッグの値段はとるに足らないものかも知れない。少なくとも米国では徹底的に追及されるだろう。国内の消費者は自分の車に限って、と思っているかも知れないが、欠陥品に命を預けているのである。タカタの最終連結決算は円安に助けられた格好で、250億の赤字にとどまるが、日本企業の信頼性を裏切ることと保証問題は長期に渡るダメージを与えたことは否定できない。
コストが命を犠牲にしているというのだろうか。実際、高級車のエアバッグにはリコールが発生していない。
米国の対応
下院エネルギー商業委員会は20日、タカタ製エアバッグのリコール問題に関する公聴会を12月3日に小委員会で開くことを発表。部材メーカーの不祥事では済まなくなった。米国の流儀として、消費者優先で素早いクレーム処理が重要なことはわかっていたはずだ。遅れた対応、隠蔽は信用を簡単に失いかねない危険な習性だ。