LCCという言葉は耳慣れたものとなっている。ANAが2010年6月末にLCC設立を発表、JALも設立を2010年8月末に発表した。2000年の911テロ以降、航空機利用者の激減・原油価格高騰など様々な悪影響により全世界的に航空産業の縮小および淘汰が始まったが、LCCは大手エアラインを尻目に着実に収益を上げている。
何故、LCCはコストダウンできるのかは、次のような理由である。LCCでは既存の航空会社が無料でサービスしていた機内食、飲み物、ブランケット、映像・音楽などの機内サービスなどなどを有料化、ネットでのチケット予約、ペーパーチケット廃止により人件費・店舗運営費を大幅に削減した。また、空港の駐機・離発着などの空港利用料の安い地方空港を利用している場合が多い。同じ都市に複数空港がある場合はサブ空港を利用する。
一般にコストダウンと聞くと、航空機が古く、整備が行き届いていないのではないかと心配だと思うが、航空機は古い機体は整備費用が嵩むため、新鋭機を使っている場合が多く、機体の整備・メインテナンスは同一機体・同一エンジンにすることで部品のストックも減らせることから、これらLCC会社は航空機の種類が少なく、汎用性の高い中・小型機が多い。しかし機体にかける費用を惜しみメンテを怠ったために事故も起こしている。このことが現在の安全性につながっているのだが、淘汰の過程では忌まわしい事故も多々起こっている。
バリュージェット機の事故
バリュージェット社は1996年にマイアミからアトランタに飛び立ったDC9機の墜落事故を起こし110名の死者を出した。原因は火災事故であったがきっかけとなったのは貨物室に違法に積載した酸素発生装置が出荷し火災が広がったことだ。酸素発生装置は充填状態では深刻無しには輸送できないのに空と偽って輸送した。その際に必要な安全ピンを付けることを怠った。さらには火災報知機が貨物室に設置されていなかった。ずさんな貨物積載を許した運行と火災報知機の欠如等コスト削減のあおりで整備不足が慢性化していたことが重なった。この事故により行き過ぎた規制緩和とコスト追求で乗客の人名を軽視するLCCの問題点が浮き彫りとなったのである。
タカタのエアバッグリコール
メデイアを賑わしているタカタのエアバッグのリコール問題もある意味でコスト削減の犠牲であったようだ。すでにこの問題は取り上げているが、その影響は一車種どころの問題ではなく、メーカーを越えて被害が拡大した。 ジェットバリューの酸素発生装置同様にこちらは化学反応でガスを瞬時に発生させるが、爆弾を抱えているようなもので、破片が飛べばそれ自体で人体を傷つける危険性がある。
エアバッグが作動した際にエアバッグを膨らませるガス発生機構に問題があり、金属容器が壊れてその破片が飛び出したり、出火したりする恐れがある。4名が死亡したことを受けて米国のリコール勧告対象車は780万台となるという。
コスト削減の報酬
このため責任の所在が問われているが、いまだにタカタの横柄な態度には、コストで人命を犠牲にした自覚がみられない。部材としてのエアバッグの値段はとるに足らないものかも知れないが米国では徹底的に追及されるだろう。日本企業の信頼性を裏切ることと保証問題は長期に渡るダメージを与えたことは否定で きない。
行き過ぎたコスト削減はひとたび社会的問題を引き起こせば、信頼性を失いリコールと訴訟対策で命取りになる。タカタの不良品は海外生産であったというが、安い労働力のために海外に拠点を移す際には技術やQCを移転する責務があるのだ。それを怠り労働力の差額で利益を伸ばそうとしたのは経営者側の責任である。
行き過ぎたコストの削減がジェット機を墜落させ、安全なはずのエアバッグが殺人機械となった事実を受け止め、教訓にすべきだろう。そうした淘汰が行われれば、人命を犠牲に利益を追求する会社は絶滅していくだろう。