写真はソ連の宇宙用原子炉TOPAZ。一度燃料を封入したら数年は稼働し続けられる小型原子炉はすでに宇宙や海上で稼働しているが、幸いに致命的な事故は報告されていない。廃炉のリスクはあるが原子炉と比べればずっと簡単で、局所的なエネルギー不足を埋める民生用にも使える可能性があることを背景として、最近、米国の国立研究所が超小型原子炉を提案し話題になっている。
原子炉が発電に占める割合は原発事故以前の日本、ドイツと米国は同じれべるにあり約20%、世界平均でも16%だがスリーマイル島の事故の後は、米国に新しい原子炉は建設されていない。軍事予算で知られる米国リバモア研究所はSSARと呼ばれる完全封入独立型の超小型原子炉の開発を開始した。
これまでの商用原子炉の多くは軽水炉型と呼ばれるタイプで、経済性から1000MW以上の発電能力があるものが多い。商用原子炉の建設コストは膨大でありチェルノブイリやスリーマイル島の事故でに代表される環境汚染や核燃料処理の問題を含み、それらを考慮すれば経済性も疑われる。また維持コストも人件費の高騰で増大し続けている。それでも超小型原子炉の意味はあるのだろうか。
これまでは核拡散の立場から原子炉技術も強く規制され後進国が設計製作の技術を獲得することは困難であった。しかしエネルギー不足が新興国を中心に深刻になると、そうもいっていられない。米国もメンテフリーの安全な小型原子炉を後進国に与えた方が安全保障上も、自国の雇用(特に縮小しつつある国立研究所)の観点からも有利な国策と判断したのである。
SSAR自体は新しいアイデアではなく、リバモア研究所の他、ロスアラモス研究所も開発して来た。これから開発するものでは、直径わずか3m、高さ15mで100MWの発電能力を有している。しかも鉛冷却型高速中性子炉であるため、中性子の運動エネルギーは軽水炉に比べて6桁以上も大きい。
ウランやプルトニウムを核分裂させて燃料とすると、放射能が消失するには30年を要する。使用済み核燃料を汚染のない形態に転換するのに多大なコストと労力を要している。もし燃料を使い切ってしまった時点で放射能が影響ないレベルに下がるならこのプロセスがなくて済む。そこで運動エネルギーの大きい中性子を使い「使い切り型」の原子炉を目指している点が新しい。
日本でも開発中の高速中性子原子炉がある他、コジェネレーションを目的としたヘリウムガスを冷却剤とした高温ガス炉も開発されている。また民間でも日立、三菱重工、東芝等のメーカーが新興国向けに小型原子炉を開発している。