MEMSという名を知らない人は多いかもしれないが、誰でもお世話になっている身近なナノテクの代表選手である。地味な響きのMEMSとはMicro Electro Mechanical Systemsの略で、Micromachineとも言われる。半導体の微細加工技術を用いて、小さなパーツを作る技術である。
半導体の微細加工とは①基板にフォトレジストという感光性樹脂を塗布し、②それに波長の短い光または電子線により感光させ、③現像することで削りたい(エッチング)部分の感光性樹脂を取り除く3段プロセスのことで、削りたくない部分を感光性樹脂が覆ったままになるので露光で削る(エッチング)ことができる。
切削して形を作るのは大きい部品だと溶剤で溶かす(溶液を使うのでウェットエッチング)が、細かい部品はイオンや反応性ガスにより削る(これをドライエッチングと呼ぶ)。現在ではMEMSによって高倍率光学顕微鏡や電子顕微鏡(1ミクロン以下)でないと見えないような微細なパーツが多い。プラモデルでも装飾品はエッチングパーツと呼んで別売のオプションである。簡単に手すりとか小銃とかモールドではできない微小パーツが簡単にできるので、アップグレードパーツとして人気が高い。
MEMSの中でも特に100ミクロン以上の厚さの部品を作るときはLIGA(Lithographie,Galvanoformung,Abformung)プロセスというX線露光を用いる。エッチングする深さが浅くて良い場合には、感光性樹脂は薄くて良いが、深く削る場合は感光性樹脂を厚くして保護する必要がある。これは、エッチングしたくない部分を保護している感光性樹脂もエッチングするときに対象物よりエッチングレート遅いが、一緒に削れてしまうためである。
MEMSデバイスという言葉は聞きなれない人でも実際には身近で使っている。スマートフォンを横に傾けるとディスプレーの画像が回転したり、ゲームコントローラを振ったりすると画像が変わったり,スイッチが入ったりするのがMEMS加速度センサーである。
加速度センサーに限っても様々な種類がある。静電容量が変わることを利用した静電容量型、ピエゾ素子を用いたピエゾ素子型、熱検知型などであるが、いずれもMEMS技術が製造で使われる。
カーナビには加速度センサーの他にジャイロが搭載されている。カーナビは通常GPSを利用するが、トンネル内などGPSからの電波の届かないところではジャイロも補完的に使用する。横方向にかかる重力加速度とジャイロの傾きで車の軌道を決めることができる。またジャイロはデジタルカメラの手振れ補正にも使われている。未来のMEMSデバイスにはさらなる技術革新が必要になるが、生体センサーや聴覚、視覚、神経系障害のための補助センサー、マイクロロボットなどの分野で今後の活躍が期待される縁の下の力持ち的なテクノロジーなのだ。