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ロシアがシリアのIS拠点の攻撃に潜水艦から発射したKalibr巡航ミサイル(注1)を使用した。ロシアは9月30日にアサド大統領からの要請でシリアのIS攻撃に踏み切った。これまでもカスピ海の艦船からKalibr巡航ミサイルでシリアのISを攻撃したが、潜水艦からの発射は今回が初めてである。
このことに米国国防総省は敏感に反応した。というのも代表的な巡行ミサイルのトマホークはドイツが第二次大戦中に開発したV-1と同様にジェットエンジンで亜音速で地上をかすめて飛行する。射程は最大3,000kmに及び通常弾頭や核弾頭を装備して艦船からあるいは潜水艦から発射される。
(注1)Kalibrの特徴は発射時には固体ロケットブースターで加速されたのちにジェットエンジンで亜音速飛行した後、弾頭部が切り離され超音速で目標に向かって飛行する点である。亜音速で飛行する西側諸国の巡航ミサイルに比べて超音速で飛行するKalibr弾頭を迎撃が困難である。
初期のKalibrの射程は短く300kmどまりとみられていたが、今回の攻撃で使われたものは2,600kmに及ぶ。実際にこの範囲には中東のすべての国が含まれるため中東の軍事バランスに強い影響を与えるとして、西側諸国は警戒している、
2015年11月13日にパリで起きたISテロ事件と10月のエジプト、シナイ半島のロシア航空機爆破事件がテロであることを16日にプーチン大統領が認めたことを受けてシリア空爆は強化されることとなった。
Source: South China Morning Post
ロシアはシリア攻撃を局地爆撃から戦略爆撃と巡航ミサイルのピンポイト攻撃を組み合わせてエスカレートさせてきた。当初の巡航ミサイル攻撃は空中発射の射程2,500-3,000kmの亜音速巡行ミサイルKh-55とKh-101を装備した爆撃機の攻撃が主であったが、潜水艦と艦船から発射するKalibrの攻撃が加わったことでロシアがISのピンポイント攻撃に重点を移したことがわかる。
ロシアのIS空爆の公開動画の一部は無誘導爆弾による絨毯爆撃で、西側諸国は精密誘導によるピンポイント攻撃能力に劣るとの見方を示したが、ピンポイント攻撃へのシフトでイラク上空を越えたKalibr攻撃を公開したことは、西側諸国への誇示の側面もある。ISへの空爆の効果については疑問の声もあるが、要衝を失って支配地が14%減少した。少なくとも、支配地拡大を食い止め徐々に勢力を追い込んでいる。対IS戦へのピンポイント攻撃の効果性は疑う余地がない。