Photo: Institute of Plasma Physics
中国内陸部のHefei市は人口440万の中核都市で、近年目覚ましい発展を遂げている。建設途中の高層アパート群の威容さに目を見張るばかりだがここ数年で新幹線駅、空港などインフラも急ピッチで進められていて、新しいビルやショッピングセンターが毎年オープンする展開の速さは日本では到底想像できない。
その街に新たに副都心地区が開発されているが、その一角に「科学島」と呼ばれる中国科学院が誇る最新の研究所群と企業の研究所が集められていることはあまり知られていない。この街には大学がいくつかあるのだが「科学島」との交流はほとんどなく、住民の多くもこの島のことはよく知らない「秘密の島」でもある。
中国に120の研究所を有する中国科学院は「科学島」に5つの研究所からなる「物理科学研究院」(Hefei Institute of Physical Science)を設立した。以下の6研究所が近接しているが自然環境は素晴らしく、研究者が快適に研究生活ができる新天地となっている。6研究所とは
プラズマ物理研究所
固体物理研究所
光学精密機械研究所
知能機械研究所
強磁場科学技術センター
応用技術研究所
である。
Photo: Hefei Institute of Physical Science
このなかでプラズマ物理研究所には核融合研究のための超伝導トカマクEASTが設置されている。このEASTというトカマクがユニークな点は磁場でプラズマ閉じ込めのために使う電磁石に超伝導磁石を使っている点である。
核融合は原子炉と異なり高レベル放射性廃棄物をださないことや核兵器の製造に関わらないことなどから、原子力に代わる新エネルギーとして期待されている。現在は国際協力プロジェクトITER(トカマク型)が核融合に最も近い存在で、フランスで建設が進んでいる。中国も参加しているITERには日本のJT60の技術がつぎ込まれている関係で両者には密接な関係がある。世界的にはプラズマ閉じ込め方式であるヘリカル型炉もドイツなどで進められているほか、レーザー圧縮方式が日本の核融合研究所や米国のローレンスリバモア国立研究所で進められている。
競争の激しい世界の核融合炉群のなかでEASTの特徴と位置付けは何か。EASTのプラズマ閉じ込め容器はJT-60Aの半分程度でコンパクトであるが超伝導磁石を用いるために磁場はEASTが上回る。EASTの特徴は世界で初めて超伝導磁石を採用したことである。またEAST-JT-60SA-ITERはこの順で容器とプラズマ温度が大きくなるので、JT-60やITERとデータベースを構築することにより、プラズマ状態に関する様々なスケーリング則が確立する。
運転目標は10keV程度のプラズマ温度の達成でITERの先行研究を担うとしている。ITERが完成して核融合が実現したとしても発電に使う実用炉の開発が必要でそのため六ヶ所村に原型炉の建設のための日欧共同プロジェクトが進行しているが、中国科学技術院も参加を望んでいるという。
数年後には「科学島」から新しい科学技術の成果が発信されるようになるだろう。日本にもかつて科学技術都市構想があり、つくば市が誕生した。80年代には世界中から研究者が訪れ、国の予算措置も潤沢に投入された。35年後の現在は、科学技術都市とは程遠いい状況だ。