半導体産業の急激な再編の行方

20.11.2015

Photo: bending


2015年は半導体産業にとってめまぐるしい再編の年になったが、とどまるところを知らない変動は2016年にかけても地殻変動を予期させるものがある。国内では数千億円規模のSHARP液晶部門の売却が(その意志があるかどうかは別として)進まないが、海外では2015年に入って大規模な買収が相次いでいる。



NXPとフリースケール合併

まず3月3日に半導体企業のNXPセミコンダクター(オランダ)とフリースケール・セミコンダクター(米国)が両者の合併を発表した。この合併によって、企業価値400億ドル、年間売上高の合計が100億ドルを超える企業が生まれた。これが再編の第一幕である。


フリースケールはもともとモローラー社から分離してテキサス州に本社を構える車載エレクトロニクスメーカー。行方不明のマレーシア航空旅客機に社員グループが登場していたことで話題となった。NXPはオランダ企業でICチップ以外にソルーション事業も展開するより広範囲の企業だが、自動運転車への車載エレクトロニクスの需要を見込んで、フリースケールを取り込んだ。



アバドテクノロジーがブロードコムを買収

5月にはアバゴ・テクノロジー(米国)がブロードコム(米国)を買収した。アバゴはHP、アジレントテクノロジー半導体部門を起源とした化合物半導体ICを中心とした企業で、ブロードコムはカリフォルニアに本拠地を持つ売上高70億ドルの半導体ICメーカー。



マイクロンに触手を伸ばす中国

7月14日に中国の国有半導体大手、チンファ・ユニグループがDRAM世界2位のマイクロン・テクノロジー(米国)に230億ドル(約2兆8400億円)で買収を提案した。中国が国営企業で仕掛ける国際買収の一環であったが、半導体の国内調達先が無い中国にとって技術立国を目指す上では半導体産業を育成ならぬ買収で手中に収めることは国策でもあった。さらにチンファ・ユニグループは9月30日、HDD主要メーカーであるウエスタン・デジタルの株式15%を取得して筆頭株主となった。



10月13日にはサンディスク(米国)が売却を検討していることが明らかとなると、エルピーダ(日本)を買収してインテルとの共同事業でも勢いに乗るマイクロン・テクノロジー(米国)と、ウエスタン・デジタル(米国)であったが、結果的にはウエスタン・デジタルがサンデイスクを買収した。ここで注意したいのはウエスタン・デジタルの筆頭株主が中国企業であることだ。つまり株主権限でHDDの技術を手中にした。とりあえずはHDDと東芝・サンデイスクのメモリー技術も間接的に手に入れた中国だがそれで満足するはずは無い。



大規模半導体メモリ事業への投資

11月に入ると中国の半導体企業の動きが活発になる。チンファ・ユニグループが6日、800億元(約1兆5500億円)をメモリー半導体工場設立と買収合併に投資することを発表した。 もちろん買収は先に失敗したマイクロンを念頭に置いてのことは明白である。マイクロン買収を虎視眈々と狙いながら東芝の技術が入ったサンデイスクを通じて「技術」を「買い」、国営に近い大規模なメモリー工場を立ち上げることになる。


中国マネーを中心に半導体企業買収が加速した裏には米国企業の苦しい財政事情があるが、この動きは再編を加速し、韓国、台湾、日本企業との価格競争が激化すると予想できる。弱みに付け込んで一気に買収する企業買収の世界は「最新技術」で成り立つ 半導体産業には無縁のものと思われていた。「技術を買う時代」の到来の行き着く先は「売れれば売れるほど損失がでる」というコモデテイ化リスクが待っているかもしれない。



Money is Power

中国としては国内で生産する電子機器の部材(特にICチップ)を購入したくない事情がある。これまで組み立てに終始し半導体産業が育たなかった中国だが、かつてはマレーシアのIC工場は環境と工場労働者の質が悪く歩留まりが多くて商売にならない、といわれたが現在ではマレーシアの工場も立派に稼働していることからすれば、近い将来、組み立ては国外に去り、売り物になる部材工場が置き換わる日がくるのかもしれない。


技術の育成には技術者の育成という長い期間と投資が必要である。新幹線に始まって多くの分野で技術立国を目指す中国だが、現実には自国の技術を育成するより「買う」方が圧倒的に早く事業化できる。確かに技術者を育成する余裕はいまの中国には無い。しかしロスチャイルドの言葉、Money is Powerの世界では「金の切れ目が縁の切れ目」である。その頃には「買う」だけでは新技術を生み出せ無いことも悟るだろうし、少しは技術者も育っているだろう。