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抗生物質が無力な超細菌(Superbug)が中国で発見されたことはすでにかいたが、新たに深刻な感染が欧州でみつかった。デンマークの病院のサルモネラ菌に感染した患者が、抗生物質を含むあらゆる治療が効かないことが報じられた。またドイツ経由で中国から輸入された鶏肉の5検体からもこの細菌が検出された。
この事実は中国で超細菌がみつかったことが報じられてからわずか3週間後のことである。中国の研究グループは耐性の強い超細菌の拡散が早いことを警告していたが、欧州への転移がこれほど早期に起こることに専門家も驚いている。
抗生物質が効かない場合にこれまではコリスチン(注1)が最後の砦となるとされていた。しかし中国で発見された超細菌はこの砦を打ち破る最初のものとなった。
(注1)多剤耐性グラム陰性桿菌(緑膿菌や赤痢など)に対する最終手段の薬物。1950年に日本企業(ライオン製薬)の研究者が土壌中の細菌から発見した。副作用も強いが多剤耐性グラム陰性桿菌感染症に有効な貴重な治療薬である。
超細菌の問題はMCR-1と呼ばれる遺伝子が大腸菌、サルモネラ菌、肺炎菌などを抗生物質の耐性を持たせる能力にある。この遺伝子は自身の複製に頼らず他の細菌に情報を伝達してしまう。(以下の図)つまり自己複製によって耐性菌が増殖するのでなく、他の菌に耐性となる情報を伝えてしまう。
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デンマークの研究グループは中国から輸入された鶏肉の5検体と患者の血液の6検体に超細菌がみつかったことに驚いている。デンマークでみつかった超細菌は輸入食肉と患者の旅行によって中国から来たことが確実で、中国内の「閉じ込め」ができなかったことを意味する。
専門家はこの超細菌がやがて世界に蔓延しパンデミックとなる危険性があるとしている。また中国ともっと貿易量の多い英国でなく小国のデンマークに超細菌が持ち込まれたことに驚きを隠せない。
時系列的には2010年9月にインドで超細菌NDM-1の患者が2名報告されている。感染者の多くは治療費の安いインドやパキスタンに行って手術を受け帰国して感染が発覚する欧州人が多い。 NDM-1は現在、インド、パキスタン以外の数10カ国で感染者がでている。日本でもNDM-1感染者がみつかっているが、この場合は海外渡航でなく国内感染が疑われている。超細菌の世界各国への拡散はもう始まっているとみてよい。
NMD-1やMCR-1の登場で抗生物質が無力という意味で、人類が「抗生物質を知る以前の時代」に逆戻りすることになると、WHOも警告している。中国で発見されたMCR-1が遺伝子の突然変異が、抗生物質漬けで家畜を飼育する異常な環境に関係しているとすれば、人類は自分で首をしめたことになる。
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