Photo: CMS group at CIEMAT
LHCのATLAS実験とCMS実験それぞれ、ヒッグス粒子の質量が116から130GeV、115から127GeVにあるとする予想により、協力して探索を行った。 CMSとはCompact Muon Solenoidの略で、6箇所の実験グループのひとつである。実際にみつかったヒッグス粒子の質量(エネルギー)は126GeVだった。
そのCMS実験がアップグレードされてエネルギーが7TeVから13TeVに上がった陽子・陽子衝突実験が可能になったLHCで何を狙っているのだろうか。その前にCMS実験に用いられる検出器について記しておく。CMSとはATLASとともにLHCに設置される検出器のひとつで、目的はヒッグス粒子の発見であった。
またその他にもSUSYヒッグス、超対称粒子、標準理論で予期されていない事象の発見も狙った汎用検出器であったが、実はもうひとつの目的があった。重イオン衝突実験である。
CMSはATLASよりやや小さい半径8m、長さ21mの(ATLASに比べればの話だが)コンパクトな検出器である。中心部にはドリフトチューブ、CSC(Cathode Strip Chamber)、RPC(Resistive Plate Chamber)からなる検出器本体が収納されている。RPCは銅ストリップに流れる電荷を検出する時間分解能が早いコインシデンス検出器でミューオンを検出する。DTはガス検出器で空間分解能に優れた検出器。CSCもガス検出器で7枚に重ねたストリップからの信号を計測するため、粒子の通過した空間座標を知ることができる。
Photo: CMS@LHC
ATLAS同様にLHC初期には10GeVから1TeVまでのミューオンを検出して衝突実験のメイン観測装置として機能した。なおCMSはATLASの反対側におかれ浜松ホトニクスのAPD(Avalansh Photodiode)が使われている。
そのCMSが次に狙うのは世界最大のエネルギーで陽子ビームを衝突させて飛び出してくる粒子を観測することである。これによりSUSYヒッグス、超対称粒子、など新粒子を発見できる可能性がある。150,000回の陽子衝突実験で22個の荷電粒子(ハドロン)が観測されたが、バックグラウンドと区別するためにさらに実験を重ねる予定である。
CMS実験においてはLHCの磁石をシャットダウンして行われるため、ビームが直進して検出器に到達する。CMSは最終的には全ての物質がクオークとレプトンでできているとする標準理論で予期されていない事象の発見も目指している。標準理論ではしかし重力や暗黒物質を説明できない。暗黒物質が宇宙の85%を占めているのに、標準理論では5%程度しか説明できていない。CMS実験で標準理論で説明できない事象が発見されてもおかしくないのである。
ヒッグス粒子の発見は標準理論で予測されたことではあるが、その先の(エネルギー)粒子が標準理論の枠内にある可能性はある。また重イオン衝突実験によりビッグバンの状況をつくりだすことができるなど、アップグレードによってパワーアップされたLHCにまた注目しなければならいだろう。それを支えるのは国境を越えた研究チームだ。
世界中から宗教や慣習に関係なく集まった頭脳集団がLHCと6箇所の実験装置をつくりあげた。神の粒子ヒッグスを発見し神の存在を予言した標準理論さえ、根拠があれば瞬時に捨て去る彼らにとっての神は自分たちがみつけるものだと信じている。