1月22日に開催されるECB(欧州中央銀行)政策理事会で量的緩和の追加策が決定される可能性が高いと言われている中、スイス国立銀行は、15日にユーロ対スイスフラン(SFr)為替相場の上限を突然撤廃した。
ユーロ危機が勃発した2011年に、安全資産とされるスイスフランが積極的に買われた結果、過度なスイスフラン高が進んだ。過度な評価の是正と経済へのマイナス影響を回避するために、事実上1ユーロ=1.200スイスフランに固定したのである。この防衛ラインを割り込んだ場合、または割りそうになった場合, スイス国立銀行は無制限の市場介入を行ってきた。つまり、外国為替市場で無制限にスイスフランを売り、ユーロを買ってスイスフラン高を防いできたのである。
今回の上限撤廃は市場介入の中止を意味する。加えて昨年12月に導入したばかりのマイナス金利-0.25をさらに -0.75へとマイナス幅の拡大をはかる2つの政策を行ったのである。だが、スイス国立銀行(SNB)のダンディーヌ副総裁は数日前に、スイス・フランの上限固定は今後も重要な金融政策と発表した矢先であったため、今回の急な政策変更は金融市場での混乱を引き起こしている。
ユーロを支えることを断念したスイス
スイス・フラン上限を設定してから、スイスの外貨準備は大幅に拡大した。2014 年12月末の時点、外貨準備高はSFr5220億(GDPの80%)、2011年から比べ92.6%増加したのである。ECBが追加の量的緩和を来週実施すれば、スイスフラン高を阻止するための無制限介入を実施、膨らみすぎた外貨準備高のさらなる拡大が避けられないと判断したようだ。
外国為替市場では、スイスフランは対ユーロで一時40%も急騰した。為替市場、株式市場、債券市場に与えた影響は大きく、今後巨額の為替差損を出す銀行、ヘッジファンドが出てくることは間違いない。実際、今回の上限撤廃でスイス国立銀行の損失はSFr800億(GDPの10%以上)になると推定される。
ECBの発表前に、スイスフラン上限を撤廃することで、これまでの中央銀行間(米国連邦準備銀行・日本銀行・欧州中央銀行)の量的緩和策の継続に「NO」を出したことになる。ユーロを支えることをやめたスイスが、ドイツとECBの追加の量的緩和の決断に与える影響は大きい。量的緩和ができないとなると、米国のQE4の復活しか打つ手はなくなる。その前に、EUの崩壊が始まる可能性も現実となってきた。