もともと米国の地方都市郊外に起源を持つ現代社会の象徴、ショッピングモールは車社会に支えられて発展したが、意外にも歴史的には都市型モールの起源は2世紀のローマにあるという。
確かにポンペイ遺跡を歩くと、いまでいう居住と一体化した飲食店と住居の「コンプレックス」といえそうな建物跡に遭遇する。人々はいまでいうマンションから歩いて、ピザを食べてから、隣の"BAR"で"Happy Hour"を楽しむ。都市型生活においてローマ人達は時代を先取りしていたようだ。
ショッピングモールの登場
さて日本ではショッピングモールの店舗面積は、1,500m2以上で、テナントが10店舗以上あることが条件である。かつては大型店舗法の規制で現在では平均的なショッピングモールさえも許されなかった。米国の圧力の結果として、構造改革が叫ばれて規制緩和によって、郊外を中心として大規模ショッピングモールが相次いで建設され、瞬く間に地方都市に広がった。
米国のモールの発展は車社会の歴史と同期した1950年代後半からである。家庭の中心に車とTVがあり週末に買い物に出かける家族はショッピングモールに飛びついた。アイスクリームショップ、映画館、スケートリンクやボウリングレーンなど、買い物とレクリエーションが一カ所で済ませられる便利さは家族全員が楽しめ、郊外の生活に彩りをそえた。
郊外型と都市型ーモールの分化
ショッピングモールも展開の過程で分化し、巨大化をたどった郊外型モールに対して、高級ブランドショップで富裕層を狙った都市型高級モールや、アウトレット中心のオープンモールなどが、異なるセグメントを形成した。現在は世界的に巨大ショッピングモール(メガモール)のラッシュである。現在、日本にはアウトレットモールが38カ所、ショッピングモール店舗が528である。
日本経済の成長率を低下させている最大の原因はサービス業といわれる。特に昔ながらの小売店が小売業の近代化の波に乗れなかったことで、消費者のメガモールへ向いた目は商店街にふたたび向けられることはなかった。子供から大人まで、性別を問わず一日中楽しめる計算されたコンテンツで長時間滞在を飽きさせない。
メガモールの出現
世界に目を向けると大きな流れが見えてくる。世界ランキング上位のメガモールが主にアジア、中東地域にあることである。現在、敷地面積のトップはメッカにあるメガモールで敷地面積は1,500,000m2、実に日本の大型店舗の定義の1,000倍である。2, 3位はいずれも中国の華南モール、金源時代モールだが前者はすでに鬼城化した。4位と5位はフイリピン、マレーシアで、6位がイラン、7,8位がふたたびマレーシア、9位にフイリピン、10位がインドネシアで、日本はイオンレイクタウンが28位にランクインするのみである。
もちろん高級モールのトップはドバイモールで店舗面積では最大である。また対テロ演習が行なわれた米国のイーストウッドモールは16位、かつて世界最大といわれたモールオブアメリカは21位である。36位までに先進国のモールは9箇所のみで、75%はかつての発展途上国にあることは驚きである。メガモールの集客力は圧倒的で、フイリピンのメガモールの平均客数は80万人、年間3億人といわれる。
メガモールでは集客数を集めることが至上命令だ。個人消費がわずかでも全体の利益で経営が成り立つからである。一晩で新しい店と入れ替わる光景をみたことがあると思う。人気のないショップは高いテナント料金が払えず撤退するしかない。競争による自然淘汰がきびしい。細々としても商売をたたまなくてすむ時代は過去のものとなり、メガモールで生き残りをかけた戦いにあけくれる。
メガモールラッシュの意味するもの
貧困層を抱える国でメガモールが成り立つことは奇妙に思えるかもしれないが現実(実像)である。この手のメガモールはとどまることを知らない。一方、都市型モールに目を向けると、先進国での新たなモール高級化の流れがみえてくる。欧州の都市型モールの近代化は(例えば)シュツットガルトで顕著である。ドイツのシュツットガルトはこの地域の自動車産業、電子産業により個人所得の高い地区である。シュツットガルトの中央駅前には高級ブランドショップが軒を連ねる商店街とショッピングモールが昔からあったが、この街にGerber、Milaneo、Konigsbau-Passagenなど近代的な都市型モールが続々とオープンしている。近代的な高級モールは吹き抜けの中央プラザが楕円もしくはラウンドした長方形の回廊で囲まれているので見分けることができる。
高級モールの流れはアジアにも押し寄せて来ている。上海の都市型モールは数多い。地元っ子でも数を把握していないほどである。数多いモールの中でもK11、iapmが近代的な都市型モールとして際立つ(下の写真)。日本でも最新のイオンモールは滑らかな曲線を持つ回廊など巧みに新しい様式を取り入れている。
郊外型のメガモールとファッショナブルな都市型モールはどちらも世界中で建設のラッシュが続いている理由は何か。皮肉にも貧富の格差が背景にあるように思える。人々の欲求を満たしながら手の届かないショウケースを見せつけることで、お金を稼ぐモチベーションを作り出す。このメカニズムでメガモールが集客を持続させるには低所得層がひしめく国ほど効果がある。つまりアジアだ。かつての中流階級は消失して出来上がったフラットな社会の日常に欠かせないものはメガモールのようだ。どちら現代人の欲求を満たすと同時に、働く意欲を植え付けて同時にお金も吸い取るカジノマシーンでもある。