マクラーレンホンダといえば天才ドライバー、ラウダ、プロスト、セナを擁し1986年には全16戦中15勝という圧倒的強さで他を圧倒したF1を代表するチ−ムとして知られる。シャーシのマクラーレンとエンジンを供給するホンダのパートナーシップは夢のコンビであり、日本の高い技術力を代表するかのようにホンダエンジンのサウンドが世界中のサーキットに響き渡った。
時は変わってF1マシンに必要とされる技術力はエンジンに限らず空力特性がものをいうようになり、それを裏付ける膨大な計算とノウハウがエンジンパワーと並んで、勝敗を決するようになると、シャーシ、エンジン、ドライバー、サポート全てに渡り以前とは比較できない領域のレベルで争われるようになった。トヨタが威信をかけて膨大な資本を投資して望んでも結果はでなかった。それほどきびしい世界なのである。
夢のパートナーシップ
しかし2015年のF1には記念すべきパートナーシップが戻ってくる。ホンダがマクラーレンにパワーユニット(注)を供給し、栄光のチームが復活したからだ。これに加えてマクラーレンには現在最高といわれるドライバー、アロンソが移籍し、ドリームチームで戦うことになった。さて時代の変遷とともにレギュレーションが重くのしかかり、年ごとに技術トレンドがめまぐるしく変わることとなった。夢のコンビ復活で送り出されたMP4-30は関係者に衝撃を与えた。
(注)パワーユニット
2013年まで「エンジンサプライヤー」であったエンジン供給メーカーは、2014年にF1レギュレーションは大幅に変更され、エンジンに2種類のエネルギー回生システムを加えたハイブリッドエンジンシステムをF1マシンに供給することとなった。このエンジ ンとエネルギー回生システムの組み合わせを「パワーユニット(PU)」と呼ばれる。ホンダはマクラーレンにはPUを開発し供給する「パワーユニットサプラ イヤー」である。 ホンダは1.6lターボのエンジンを中心にエネルギー回生システムを組み合わせたPUを開発した。
醜いノーズ
2013年型までのF1マシンはノーズ部分が高い。そのためドライバーはコクピットで寝そべる姿勢で視界が良くなかった。2014年からはノーズを大幅に下げるレギュレーションになったためコックピット前部から、ノーズ先端まで急激なカーブを描くデザインを強いられた。またマシンの底の部分の空気の流れを利用して、クルマを押さえ込むダウンフォースを発生させるため、ノー ズの下にできる取り込み口を空けて空気の流れを取り込むようになっている。このため、空気取り入れ口を下げるために写真のように醜いノーズとなった。
技術は輪廻するといわれるが2015年型のマクラーレンホンダに驚くべき変化があった。醜いノーズがなくなり先端からコックピットまで流れるような曲線となったのだ。さてこの平面を保ちながら変化する曲線はどこかでみたことがあると気がつく人は空力に興味があるはずだ。下の写真はJR東海が建設に着手した超伝導リニアモーター新幹線の先頭車両である。様々な新幹線先頭車両はそれぞれに個性があるが主にダウンフォース特性とトンネル突入時の衝撃を考慮して行き着いた先がこの形らしい。
共通の流線型をとることになったマクラーレンホンダとリニア新幹線。どちらも期待が高まると同時に不安もあることでも共通点が多い。マクラーレンホンダのPU実力は未知数である。昨年末の合同テストでホンダのPUを搭載した先行開発車両を初めて走らせたが、電気系をはじめとする数々のトラブルでわずか5周しか走ることができなかった。一方で圧倒的な強みをみせたメルセデスや、先行して1年の経験があるフェラーリやルノーといった既存メーカーと比べれば、信頼性の面で経験値が圧倒的に足りないのである。
リニア新幹線はどうか。致命的なのは9兆円を投入しても東京名古屋間なので大阪を含めて関西へ行くには乗り換えを強いられること、山岳区間の工事のリスクが高いこと、工事費用と電力コストで採算性に疑問があること、などの問題が未解決のまま建設に踏み切ったJR東海にはマクラーレンホンダ同様、プレッシャーがのしかかる。マクラーレンホンダにとっては期待と不安のシーズン幕開けが近づいている。JR東海にとっては工事費と維持コストの見直しが急務となっている。