金属ナノ粒子とは10nm=100オングストローム程度の直径の金属粒子のことである。様々な金属のなかでも金のナノ粒子は単純に微細な電子回路の配線や触媒に応用される他、最近は球状核酸(Spherical Nucleic Acid, SNA)という機能性のバイオナノ粒子が注目を浴びている。SNAは米国ノースウエスタン大学のMirkin教授によって開発された直径15nm程度の金のナノ粒子の表面にDNAを固定したものである。
球状核酸は無害な金ナノ粒子状に固定された2重螺旋構造をとらない状態で各種のDNAを運び治療に役立てることができる。広義のDrug Delivery技術だが単に薬剤を運ぶだけでなく生理機能を運ぶ担体となる。
球状核酸は免疫を避けて生理機能を体内に届ける事が可能になることで、アルツハイマーやパーキンソン病等の疾病に有効な治療となることが期待されている。遺伝子組み換えにより特別な機能を持たせたDNAを人体内部に運ぶことができるこの技術は近年のナノテクノロジーの発展の中でも際立った成果である。
金ナノ粒子に生体分子を固定する研究は球状核酸の他にもさかんである。金とチオール(SH)基の強い結合を利用して、分子をチオール基を含ませることで固定する。チオールと金の強い相互作用は金原子のはぎ取りにも使われている。1枚づつ表面の金原子層をエッチングすることでナノ粒子を削っていきナノ粒子より小さい10数原子からなるクラスターもつくることができる。
ナノ粒子の研究は1990年代に急激に進んだが金に限ってはナノ科学以前から実用的材料であった。金微粒子は古代(ローマ)でガラスを赤に発色させる材料として使われて来たが、発色の原理は19世紀になって電気化学の父として知られるマイケルファラデーが表面プラズモン効果であることを発見した。
金属ナノ粒子の配位子とナノ粒子表面原子との相互作用により、金属コアの電荷、その結果として表面プラズモンつまり発色の細かい制御も可能になる。古代の職人達が経験的に習得した発色技術がようやく科学的に制御できるようになったわけである。
金ナノ粒子は比較的製造し易いこともあり、球状核酸以外にも生体分子を固定する研究はますますさかんになるだろう。