ギリシャ債務危機とドイツの決断−IMF債務報告書の意味

July 8, 2015

Photo: Telegraph


IMFのギリシャ債務報告書

 7月2日にIMFはギリシャ債務の持続可能性を分析した報告書を発表した。報告書によると、債務団による大規模な債務削減がない限り、ギリシャ債務は持続可能にならないと指摘した。


 さらに、EUと ECBによるギリシャ債務危機の対応の失敗、現スィリザ (左派政党:Syriza)政権の政策の変更、債務交渉や構造改革の遅れが債務問題の悪化となったと批判した。


 この報告書の公表にIMFの欧州加盟国は反対した。EUとECBも公表をやめるよう動き掛けた。しかし、IMFで主導権を持つ米国を含む過半数の賛成で報告書は、ギリシャが財政緊縮策についての賛否を問う国民投票の3日前に公表された。チプロス首相は国民投票前に、「欧州の脅迫にノーを」の演説の中でこの報告書の内容を引例に投票に、ノーを訴えた。


  報告書は、ギリシャの破綻を回避するため、今後数カ月にわたり、100億ユーロの追加支援とその後3年間に渡り、500億ユーロ(約6兆8千億円)の追加支援が必要と指摘。財政黒字と成長率目標の引き下げ、さらに債務の返済期限を現在の20年から40年に延期、債務支払を再開する前に20年の猶予期間と最終的支払期限を2055年までとすることを示唆している。



 ギリシャ債務を持続可能にするには、GDPに対する政府債務を現在の177%から117%以下に引き下げることが必要で、この目標を達成するにはGDPの30%に匹敵する債務削減が不可欠とした。つまり、ギリシャの救済にはEU諸国の公的資金を債務削減に使わなければならないのである。



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報告書の公開がもつ意味 

 当初から公開に反対したEUと ECB。トロイカの中で、米国主導のIMFとヨーロッパ債権団のEU・ECBとの間でギリシャ務問題だけでなく、欧州連合のあり方に対する意見の対立があると解釈できる。ドイツのメルケル首相は国民国家が加盟する連合体としてEUをとらえている。つまり通貨は1つで金融政策を決めるのは欧州中央銀行であるが、財政政策は各国政府が実施するということである。

 

 IMFは全ての加盟国が1つの金融と財政政策の管理下にある完全統合したEUへの変革を求めているようにみえる。言い換えれば、「債務返済で財政困難にあるギリシャに続きイタリア、ポルトガル、スペイン、フランスなどの債務国を、ドイツ、オランダ、フィンランドといったEUの中でGDPの高い国々が救済する」必要性を指摘しているように思われる。

 

 

決断をせまられるドイツ

 今後、ドイツはEUの存続と方向性を決める政治的判断をしなければならない。公的債務の返還負担の軽減がなければ、債務危機の問題は解決できない。返還負担の軽減は公的資金の導入が必要となるが、EU各国特にドイツでは国民の反対は避けられない状況である。