Photo: Wiki
世界最大のクルーズ客船でどんな旅ができるのだろうか。かつて太平洋をまたぐには客船が唯一の手段であった時代はとっくの昔に消え去ろうとしている。
アメリカのロイヤル・カリビアン・インターナショナルが運航するクルーズ客船、「オアシスオブザシーズ」のことである。2009年12月1日から就航を開始し、同社の「フリーダム・オブ・ザ・シーズ」を抜き、世界最大のクルーズ客船となった(注1)。
以下にそのスペックを簡単に紹介する。
総トン数225,282 トン
満載排水量約10万トン
全長361.0 m (1,186.5 ft)
幅64.9 m (213 ft)
高さ72.0 m(水面より)
出力60MW(約81,500馬力)
航海速力20.2ノット
船客定員5,400名(最大6,300名)
乗組員2,160名
(注1)すでに別記事でかいたように、世界最大というのはクルーズ客船カテゴリでのことで世界最大の船はPioneering Spiritで全長は382m、排水量は90万トン。「オアシスオブザシー」の4倍強である。またスーパータンカーの世界では20万トン、30万トンは珍しくない。あくまでクルーズ船での世界最大という意味である。
しかし豪華クルーズ客船業界は、ひたすら大きく豪華な客船をつくれば旅行客の人気を得ることができるため、超大型クルーザーにどれだけ娯楽施設を詰め込めるかという競争にしのぎを削ってきた。その結果いまでは主要な港でそれらの姿をみかけるようになった。
娯楽施設の豊富さを各社とも競い合っている。以下に「オアシスオブザシー」の娯楽設備を列挙する。
吹き抜けのモール
本物の樹木が生い茂ったパーク
ボードウオーク
シアター
アクアシアター
プール
ゴルフ
スケートリンク
擬似サーフイン
スポーツジム
レストラン、カフェ(含むスターバックス)
会議場
Photo: Boating Safety and Safe Boating Blog
このような娯楽設備を洋上で楽しむことに、どれほど価値があるのかわからないが、少なくともロイヤル・カリビアン・インターナショナル社は好調のようである。客室料金はピンからキリまでありそれらに微妙な差別化が施され、クラブ等の一部の施設へのアクセスが制限される場合がある。
日本では豪華客船クルーズが人気のようだし、クルーズ専門のブログも驚くほど充実している。筆者の欧州の友人はカリブクルーズ船には娯楽設備と客が多すぎる、と顔をしかめる。ワインと読書だけが楽しみでクルーズ船に乗るというのだ。
ロイヤル・カリビアン・インターナショナル社は2009年に「オアシスオブザシー」を就航させたが、2010年には姉妹船「アルーアオブザシー」を加え、フロリダ州からカリブ海と往復するツアーに運用している。
カリブ海ツアーでは途中、いくつかの港に寄港していくので、米国人富裕層に人気のあるカリブの島々に上陸したり、ダイビングやジェットスキーで海を満喫したり観光客を飽きさせない。
筆者がキーウエストにある最南端ポイントにいたとき、沖合を超大型クルーズ船が優雅に航行していた。とてつもない大きさなのは遠くらでもはっきりわかる。フロリダからカリブへのクルーズツアーはこのクラスより小さい(それでも5階建てビルくらいの高さになる)クルーズ船のツアーが目白押しで、気になる人は探せばいくらでもお手ごろ価格のツアーがみつかるだろう。
一方、世界最大の豪華客船の豪華な客室に収まり優雅な旅を楽しむことこそ最上級の旅と考えている人たちもいる。一方で旅の楽しみは「日常の世界と一切縁を切って自分の生活を個性的に演出する」ことや、「国境のない空間や未知の世界に身を委ねる」ことだとする人たちもいる。
そうした人は豪華客船に乗っても日常生活の片鱗でも見出そうものなら、「都会の憂鬱」に心が落ち着かなくなる。スターバックスやWiFi、ドレスコード、お気に入りの料理と酒、どれもこれも忘れたい人にとっては最悪な旅になるかもしれない。