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欧州連合(EU)は、加盟国のなかで金融機関の再生・破綻処理の為の「ベイルイン」の導入を実施していない11カ国に警告をだした。最大で2ヶ月以内に導入しなければ、欧州司法裁判所による執行命令の発動に動くとしている。また場合によってはEU除外も辞さないと警告している。
ベイルイン導入の背景
2008年のリーマン・ショック後、金融機関を破綻危機から救済するために各国は公的資金(ベイルアウト)を用いた。その当時は、金融機関の破綻に対処するための法制度は整っておらず、破綻を容認するか公的資金の注入による救済しか手段はなかったとされる。税金を使っての「大きすぎてつぶせない」銀行の救済は国民からの批判をうけ、破綻処理に対応する新しい枠組みの導入の議論が始まった。
2010年に開催されたG20では、納税者に負担を負わせることなく、金融機関の再生と破綻処理(Bank Recovery and Resolution Directive: BRRD)の方法の1つとして、株主や一般債権者の損失を負う枠組み(ベイルイン)を導入するための法改正を各国が行う提案を承認した。EU、アメリカ、カナダ、ニュージーランド、オーストラリア、日本などは預金保険法の改正を行っており、ベイルインが可能となっている。
EUは2014年にベイルインの導入を採択し、EU加盟国は制度を導入するためにそれぞれ法改正を行い、2016年1月1日までに導入することになっている。今回、警告を受けているのが、ベイルインの導入のための法改正を実施していないブルガリア、リトアニア、マルタ、ポーランド、ルーマニア、スェーデン、フランス、イタリア、チェコ共和国、ルクセンブルク、オランダの11加盟国である。すでにEUの17カ国は導入している。
ベイルインの対象には預金保険システムで保護されている預金が含まれている。EUはベイルインの預金対象を全額保証の10万ユーロ以上の預金を対象としている。しかし、オーストリアが4月に預金保証を撤廃し、ベイルインの対象が全ての預金者とする国も増えているのは事実である。
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2013年のキプロス銀行の破綻
キプロス銀行が破綻した際、救済のためにEUは公的資金を投入した。その後、10万ユーロ以下の預金には6.7%、10万ユーロ以上の預金には9.9%のベイルイン(銀行救済としての預金の一部の押収)が提案された。ベイルイン法案が議会で可決するまでの10日間、キプロスの金融機関は預金封鎖した。最終的にはベイルインは導入され、10万ユーロ以上の預金に対しては40%の押収が実施された。
上の写真はギリシャ金融危機で銀行に押しかけた預金者たち。このような光景を再び見る時が来るのだろうか。
ベイルイン導入により金融機関の救済は国から、金融機関の株主や債権者へと責任は移る。つまり次の金融機関の危機には、一般預金者の預金が救済資金の対象となるのである。世界的に現金廃止やキャッシュレス化が進んでいるなか、銀行に預金口座をもつことは必要不可欠である。
しかし、次の金融機関の破綻の際、預金封鎖とその後の預金の一部が押収されるベイルインが実施されることは間違いない。今回にEUによる警告は、金融機関の破綻回避のために預金者が債務を負うリスクが高まっていることを意味している。
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