Photo: Oil and Gas Linked
シェールガス・オイルの掘削が新しいテクノロジーの連携で著しい効果を上げ採掘の生産性が飛躍的に上がったことが、「シェールガス革命」と呼ばれる、アメリカ国内の化石燃料の急激な生産につながったとされる。
シェールガス・オイルの掘削工法の要はふたつ。縦穴を1,000mにも渡って掘った地点を起点にして水平に穴を掘る水平掘削技術と水圧破砕と呼ばれる化学物質と砂の混合された水を高圧で吹き付ける技術である。
縦穴さえ掘れば圧力で噴出させるかあるいはポンプでくみ上げる従来の原油採掘ではシェールガス・オイルの掘削はできない。地下1,000mにも達する硬い岩盤に染み込んだガス・オイルを絞り出すには、水圧で岩をこじ開けて閉じないように砂でブロックし、それを化学物質で接着剤のように固定するプロセスが必要になる。
しかしこれらの技術と豊富な機材を投入したはずのリグの閉鎖が相次ぎ、国内企業の投資がほとんどすべて失敗に終わった。シェールガス・オイルの埋蔵量の多さにそぐわない採算性の悪さに疑問に感じていた人は多い。掘削技術には埋蔵量の多い掘削ポイント”Sweet Spot”の中でも、さらにピンポイントで掘削場所を決定する”Microseismic Monitoring”と呼ぶ地質探査能力が決定的な役割を果たした。
“Microseismic Monitoring”は地下で小規模な爆発を起こし、微細な振動を地下に設置した複数のセンサーでとらえて、トモグラフイーのように地質(破砕層)の分布を未知数として膨大な連立方程式を解き3次元の地質分布図をつくる技術である。当然、爆破技術とIT技術の両方、そして資源探査のソフト開発が必要になる。そこで登場するのがこれらを駆使してデータを解析して精密な地下の3D透視図を作成することができる資源探査企業、ハリバートン社(注1)だ。
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ハリバートン社は”Pinnacle”と呼ぶMicroseizmic Monitoringソルーションを開発し、これが後発各社の標準となった。同社は数々の特許技術の投入でPinnacle技術をアップグレードし、世界の25,000箇所の破砕層マップ作成の実績があり過去20年にわたり業界をリードして来た。
Microseismic Monitoringでは上の図のように縦穴にそって深さの異なる場所においたセンサーを多数設置し、センサーからのデータをファイバーケーブルで一箇所にまとめ、その場で膨大な計算を行い3Dトモグラフイマップをつくる。
さらに地球化学的データからシェールの鉱物組成を分析して岩石中の孔隙率と水飽和率、シェールの浸透率とシェール中のガス量を推定する。シェール中の有機物はガス源だけではなく、ガスの吸収媒体も含むのでこれらを見分けて掘削ポイントを決定する。分析にはシェールの専門家、化学分析専門家のチームで行う。
また粘土質のタイプを判定し水圧破砕に用いる圧入流体の仕様を決める。 最後に破砕を貯留岩元来のものと掘削上のものに分類し、シェール中で最も浸透率の高い箇所を捜し当てて「ピンポイント」で掘削を開始する。ピンポイントで掘削地点を探り当てることが採算性の高いリグを所有するかどうかを決める。シェールガス・オイル掘削現場という「戦場」で活躍していたのは、(チェイニーがCEOを務めていた)有名な資源探査を看板に軍事にも関係が深い多国籍企業であった。
1990年のボスニアで利益を上げ、イラク戦争後のロジステイックスでも成長した「戦争で豊かになった企業」は、今度はシェール革命に参加する。シェールガス・オイル掘削現場という戦場でこの企業の探査技術は欠かせないものとなっていった。人工地震で得た膨大な3D地質データとそれを分析して適切に、採算性のとれる地点にリグをつくること、これこそがシェール革命を生き残るための手段であった。舞台から消えた採算性がとれなかったリグは「情報戦」に負けたのかもしれない。
(注1)ハリバートン社はテキサス、ヒューストンに本社のある5万人の多国籍企業。資源探査が看板だがその歴史は戦争と深いつながりがあある。政府と太いチャネルがあるからだ。戦争と石油で利益を上げてきたが、チェイニー事件以来政府との関係が批判の対象となりると利益が落ち込み、最近9,000人のリストラを余儀なくされた。シェールオイル事業で急場を救われた感があるが、新たな戦場を求めている。