アウデイは空気中のCO2(温室効果ガス)から、ゼロエミッションのデイーゼル燃料をつくることに成功した。製造には水と再生可能エネルギーが使われるためトータルでゼロエミッションが達成できる。
トヨタ、ホンダが市販車を先行することに代表されるように、政府の推進する水素社会構想や燃料電池車のゼロエミッション性はアピール度が高い。しかし少しでも水素をいじった経験のある人にとっては、燃料電池車に水素を充填したタンクがあることや、地下を天然ガスの代わりに水素ガスが流れることに違和感を感じるだろう。
テスラモータースのイーロンマスクの批判は少し古くさいイメージに基づくところもあるのだが、アウデイは少し違った水素社会を考えた。彼らの考えた水素社会は日本よりももっと積極的に地球温暖化に立ち向かうものである。
温暖化に寄与する温室効果ガス(CO2)から、ゼロエミッションのデイーゼル燃料がつくれないか、と彼らは考えたのだ。"Blue Crude"と呼ぶこの画期的な燃料の製造過程はいくつかのステップで構成される。その最初のステップは高温の電解によって水から水素と酸素をつくるステップである。
この過程で温室ガスを排出する火力は使えない。このため電力供給を再生可能エネルギーでまかなう。次に水素と温室ガスの主成分であろCO2と反応させ、"Blue Crude"を製造する。"Blue Crude"を精製してデイーゼル燃料をつくる過程でも温室効果ガス排出は避けなければならない。
ドイツ政府の援助を受けたデイーゼル燃料製造会社”Sunfire"はテストプラントで3,000l/月の生産能力に達したため、今後、スケールアップして本格的な生産体制をつくるとしている。
タイムやフォーチュンで取り上げられた理由は、温室効果ガス排出の少ないこと以外に、それを燃料として利用する、という積極性が評価されたからだろう。
日本の水素社会構造も水から水素と酸素をつくるプロセスで温室ガスを減らす努力まで示す必要性に迫られることになった。これまでもCOと水素から触媒反応で炭化水素をつくるフイーッシャートロプシュ法というものがあった。
この方法で必要なCOは炭化水素の部分燃焼に頼るので製造過程で原料と成るのはメタンなどの炭化水素になる。CO2を利用できれば空気を原料として無尽蔵の資源が利用できる。その詳細は不明だがなんらかの触媒反応で還元反応を起こすものであろう。
合成されたデイーゼル燃料は写真のように無色透明でクリーンな排出ガスとなることは知られていたが、空気中のCO2固定という発想は斬新的である。スチームリフォーミング(水蒸気改質)法という炭化水素と水蒸気の反応によって一酸化炭素COと水素H2からなる混合ガスを製造する方法もあった。
CO2 + H2 -> CO + H2O
この反応を促進する触媒がみつかれば原理的にはCO2を原料として、炭化水素を合成できる。水素社会の解釈を変えて水素を使う燃料電池で発電し、電力ネットでエネルギー供給するなど、様々な吟味が必要である。