Photo: enca.com
13日に起きたパリ同時多発テロ事件を数回にわたり検証してみたい。1回目はなぜパリ、なぜフランスかを探ってみる。
なぜパリか
ジャック・ライス(元CIA)によると、2001年の9・11テロでニューヨークのワールドトレードセンターが標的となったのと同じで、パリはヨーロッパを象徴する都市(光の都と呼ばれ、ロマンチックで西洋文化の中心)であることから、テロの標的となったと指摘している。今回のテロ事件は、2008年のムンバイ同時多発テロ事件で外国人向けのホテルや鉄道駅などの複数の場所で同時に起きた点が似ており、テロを実行するうえで最も残酷だが有効な方法であると強調した。
「欧米を全て破壊することはできない。だが、人々に強い印象を残す大胆なことを実行することがテロである。」
「人々はどこに行けばいいか、どこが安全であるか、家族にとって安全な場所がどこにあるのかが分からなくなる。その結果、人々は麻痺状態になる。政府は情報機関、軍、警察を総動員して状況の対処にあたる。そうして国は国境を閉鎖し、戒厳令をしく。」
「ISISが果たしたことは、どこでもテロを起こし、誰でも標的になり得ることである。それで無秩序の状態をつくるのである。」
と述べている。
ニューヨーク警察の情報対テロ部のジョン・ミラー副長官やムンバイ警察のDeven Bharti長官は今回の事件が2008年11月26日に起きたムンバイ同時多発テロとの類似点に注目している。テロの目的、標的となった場所が世界有数の人気都市、サッカー試合会場、若者たちが多い音楽コンサート、金曜の夜で賑わうレストランなどの「ソフト・ターゲット」を標的にしたこと、実行犯が8人でそのうち自爆と無差別銃撃に分かれる、数人のグループに分かれて複数の場所でほぼ同時にテロを実行することで警察や公安部隊を混乱させるなどの点をあげている。ムンバイの同時多発テロ事件は今後起きる可能性の高い都市型テロ事件のモデルとなったと考えられる。
写真はテロで混乱する観客が逃げ惑う競技場。
Photo: The Hindu
なぜフランスか
フランスでは、イスラム教徒が総人口の約10%を占め、その割合は欧州諸国の間では最も高い。多くはフランスの植民地であったアルジェリア、モロッコ、チュニジアからの移民であるが、フランスが抱える人口減少対策として他のイスラム国からの移民も受け入れてきた。
定住するが、フランス社会には溶けこむことなく、イスラム系コミュニティーで生活する。フランスの失業率は10.3%、25歳未満は24.4%と高いが、イスラム教徒の移民の間では失業率はその3~4倍とも言われている。そのため、多くのコミュニティはスラム化し、ギャングが支配する地域も多く存在する。
フランスは最もイスラム原理主義的思想に共感するイスラム教徒が多い欧州国である。特に若者たちが共感する背景には、社会への不満がある。欧州から3,000 人がシリアとイラクのISISに参加していると報告されている。そのうち1,430人はフランスから、加えてフランスで1,570人がISISとのネットワークとの関連で情報局の監視対象となっている。これまで約200人のISIS聖戦者がフランスに戻っていることから、フランスでテロが起きてもおかしくない状況である。
フランスにおける犯罪統計をみると、全囚人の70%がイスラム教、犯罪で逮捕される可能性は非イスラム教徒より21倍と高い。欧州刑事警察機構(Europol:ユーロポール)の2014年レポートによると、2013年に欧州5カ国で起きた152件のテロ事件のうち41.4%はフランスで起き、宗教関連の犯罪が増加傾向にあると報告している。2014年に実施された調査では、ISISに対して共感が持てると答えたフランス人は15%で、欧州では最も高い。気になることは、年齢別にみて18~24歳の若者の27%が共感持てると答えたことである。フランスでテロ事件が起きてもおかしくない環境があると言える。
9月には約4,000人のイスラム過激組織のメンバーが一般の移民に混じって、トルコからギリシャのルートで欧州国に散らばって聖戦を準備していると英国のデイリー・エクスプレス紙は報道した。事実であれば、パリの同時多発テロ事件に続いて欧州でテロ事件が起きる可能性は高い。