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ドイツ金融当局は犯罪防止策の一貫と題して、5,000ユーロ(約65万円)以上の現金決済の禁止と500ユーロ紙幣の廃止の検討を始めた。先進国で最も現金支払いを好む国民に対して、一種の資本規制とも言える、キャッシュレス化への一歩を進めることになる。
現金支払いを好むドイツ人
ボストン連銀の調査によると、先進国7カ国のうち、ドイツ人は最も現金で支払いを行う国民である。商品・サービスの約82%の支払いが現金で行われている。世界でキャッシュレス化が進んでいるなか、ドイツ人は高額の支払いでも現金を使う傾向がある。米国では既に、現金支払いは支払い手段の46%まで下がり、世界で最も現金廃止が進んでいるオランダ、ノルウェー、スウェーデンでは85%以上の支払手段は電子決算で行われている。
ドイツ人が現金支払いを好む理由として、支出がよく把握できる、個人プライバシーの確保などが挙げられるが、ドイツ金融歴史専門家たちによると、ワイマール・ハイパーインフレなどドイツが過去に直面した様々な金融危機の教訓が影響していると指摘する。つまり、将来の不安と金融システムへの不確実性の考えを反映しているのである。
現金廃止の動き
ドイツ政府の経済顧問であるペーター・ポーファンガー氏は2015年に、Del Spiegelで、『硬貨や紙幣はもはや時代遅れであり、中央銀行の影響力を弱める。現金を廃止することで、中央銀行の金融政策を効果的に実施することができる。次回のG-7サミットで現金を世界レベルで廃止することを議論すべき。』と述べている。この見解はドイツ連邦銀行を含め、世界中の中央銀行や多くのケインズ派の経済学者たちに支持されている。
ではなぜ、現金廃止が中央銀行にとって都合がいいのか。まず、今の世界の経済状況を考えると、銀行倒産のリスクは高く、取り付け騒ぎが起きることを銀行は恐れている。また、倒産危機の際、銀行救済のためのベイルインが、マイナス金利で簡単に実行できる。中央銀行の視点では、通貨量をコントロールできることで、金融政策を簡単に実施できる。
つまり、消費が下がれば、銀行預金に大幅なマイナス金利を課せることで、国民はお金を使い、消費活動を上げることができる。経済が過熱していれば、国民による消費を下げるため、預金金利を高く設定、消費より貯蓄の拡大を図る。銀行にとって都合のいい制度であり、国民の経済活動は完全に銀行によって監視、コントロールされることになる。こうなれば、ドイツ国民によるキャッシュレス化への抵抗を期待するしかない。