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未確認ながらこのところブログなどのソーシャルメデイアで世界最大の円形加速器LHCがヒッグス粒子の発見を上回る世紀の発見を成し遂げたというニュースが飛び交っている。最近の重力波の検証の時にも数ヶ月も前から噂が飛び交っていて公式発表の前に、内容が知られていた。今回もそのようなことになるのだろうか。
CERNの素粒子理論グループによれば「今回の成果はすでにある理論の検証(暗に神の粒子(ヒッグス粒子)のように予測されていた素粒子の発見で理論を検証したことを指す)ではなく、未知の世界へつながる扉を開けたようなもの」ということになる。
2016年に(今から数ヶ月以内に)発表される「未知の世界へつながる扉の発見」とは一体何を指しているのだろうか。最近の話題はLHCに設置してある2つの巨大な検出器(ATLAS、CMS)で独立に見出された750GeVエネルギーを持つ光子の観測(下の模式図のγ)がヒントになるかもしれない。その発見が真実なら2012年7月のヒッグス粒子発見が霞むほどの成果だとされる。
というのもヒッグス粒子の発見は長年にわたる素粒子探求の最終章であったが、同時にそれは現時点での理解(標準理論)に登場する粒子が全てが出揃ったことを意味していた。標準理論はヒッグス粒子を始め過去の全ての高エネルギー衝突実験を矛盾なく説明できていた。素粒子物理ではしかし実験をその理論が説明できなくなる時に理論に変更が加えられるか、旧理論を包含する新しい理論が提案される。
また標準理論は電磁気相互作用、強い相互作用、弱い相互作用を矛盾なく説明してきたが、今回の発見はおそらくヒッグスボソンより質量(エネルギー)の大きいボソンに関するものではないかと推測されている(Nature 2015 19036, doi: 10.1038)。
2012年のヒッグス粒子発見もATLAS、CMSという独立の実験グループによるものであったが、最近この二つの実験グループが独立に観測した750GeVの質量を持つ新粒子(ボソン)の発見が確認される可能性が高い。
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新粒子はヒッグスと同じボソンであるが同じエネルギーを持つ2つの光子へ崩壊する性質(上図)を持たない。そのためヒッグスではなくトップクオークより4倍質量が大きくヒッグスより6倍質量の大きい新粒子である可能性が高い。これまでの2回の実験における統計的な確度が新粒子発見の条件を満たさないため、公式発表が遅れていると考えられている。
これまでATLASでは40個、CMSでは10個多い光子が確認されているのみである。この程度だと偶然の結果という批判もあるが、もし新粒子発見になればこれまでの素粒子物理の理解が根底から覆る。というのもヒッグスボソンが標準理論の最後の粒子であり、新粒子発見は標準理論の破綻を意味するからである。
750GeVの粒子が質量の大きいヒッグスボソンである可能性もあると考える人もいる。一方、標準理論を超えるとされる超対称理論も1,600GeVまでのエネルギー範囲の中で検証されていないため、この理論への期待も薄れかけていた。LHC実験で750GeVピークの正体がわかればば、標準理論から脱却をせざるを得なくなる。2016年のLHC実験は750GeVピークの検証が最優先課題となる。