ULTraとはUrban Light Transitの略。英国のULTra Global PRTという会社が開発したパーソナル公共交通機関である。この未来型交通機関はすでに2011年5月にヒースロー空港に21台が設置され、北駐車場とターミナル5 の間3.9km区間で運転を行なっている。
世界の大空港には決まってターミナル移動用の自動運転列車が運行されている。多くの場合ループでターミナルを周回して戻ってくるので、駅を間違えても安心だが、シアトルのタコマ空港の場合は少々複雑で混乱する。この空港はターミナルが4カ所あり、それらをつなぐサテライト・トランジット・システムの路線は、ふたつのループとループをつなぐ合計3本あるからだ。出発時間が迫っている場合には慌てるのでこの複雑さはパニックを引き起こす。
テキサスのダラス空港はターミナルが5つだがひとつの路線(ループ)のスカイリンクでつながっていてはるかに便利である。ちなみにスカイリンクは、世界最速の空港内人員輸送システムだそうだ。空港ではないが日本の名古屋の愛知万博の時に設置されたリニアモーターカー「りにも」も無人運転で、郊外と都心を結ぶ未来的な乗り物といえる。
ULTraは建設経費を安くするために未来的な技術は一切使わない。モノレールでもリニアのように車体を浮かせるわけでもなく、ガイドレールによりタイア設置の車体が自動運行されるだけである。
それでもあか抜けたデザインは明らかに未来志向でワクワクさせるものがある。このようなパーソナルな車体は例えて言うならデイズニーランドのアトラクションのように、家族や友人、会社の同僚が移動空間を共有できるので利用者に好評である。このような交通機関を総称してPRT(Personal Tapid Transit)と呼び、車の温室ガス排気を減らす観点で話題を集めるようになった。
PRTの歴史は意外に古く1975年からMorgantownにあるウエストバージニア大学キャンパスとダウンタウンを結ぶMorgantown Personal Rapid Transitが5駅14km区間で運行され一日の利用客はMorgantownの人口の半分以上の16,000人にもなる。
大学にはMotgantownの人口とほぼ同じ学生が通うが新しいキャンパスと古いキャンパスの中心に位置するため、都市部の渋滞を避けるにはこれらを結ぶ公共交通機関が必要であった。このシステムは政府主導のモデルケースとして整備されたが、全米へのPRTの波及はみられなかったものの、この土地では成功した。
Morgantownからの技術面での進歩は主にバッテリー技術にある。短時間で充電可能なバッテリーで自立運転となるため架線工事が不要になりタイア設置のためガイドレールはコンクリートの壁で済むようになった。このため建設費が大幅に削減されることとなった。
2006年にヒースロー空港の運営会社がULTra Global PRTの25%を出資しヒースロー空港にULTraが運行することになった。ターミナル5は4つあるターミナルに加わたBA専用の最新ターミナルである。ヒースロー空港の1、3、4、5ターミナルはそれぞれ離れている上に、ターミナル5は3つの建物からなるので、利用客にとっては不便だ。しかしULTraの待ち時間は平均12秒と高速移動に優れているため将来は台数を増やして路線を周囲のホテルまで延長する計画がある。
ULTraはインドに計画中のPRTに新型車両で売り込みをかけている。公共交通機関がパーソナル化すれば都市部の足として重宝することは確かだ。技術的な革新性よりコストを下げたコンセプトは外観以上に未来型といえそうだ。ちなみにシアトルやダラスのTransitに乗るのは地下鉄にのるのと同じで、飛行機が着くとラッシュ時のホームになる。EV車の自動運転が未来形だとしたら私は絶対PRTに乗りたいと思う。