奢れるもの久しからず。マイケル・デルのDell
Computerが世界を席巻したビジネスモデルは何故崩壊したのであろうか。一言でいえば底なしデフレビジネスに落ち来んだということだ。Dellでは値下げや割引という言葉を使わず「キャンペーン」という低価格路線とセミオーダーメードのビジネスモデルが一定の成果を上げた。売上を伸ばしていた時期はサポートも充実していたし、トラブル時の対応はメールや電話で的確に指示したことで顧客満足度も良好であった。(注)
(注)大多数の米国企業のコールセンターは米国本社にあるような流暢な応対だがアジアに拠点がある。注意深くやりとりをするとコールセンターが現場から遠く離れた場所にあることがわかる場合もある。
しかし最近トラブル時の対応の評判が悪くなってきた。売上が下がってきたことでサポートに人員が割けないためである。再生の打開策としてサーバーや、クラウドコンピューティングに軸足を移しつつあるが、もちろん飛ぶ鳥を落とす勢いからほど遠い。PC部門の業績悪化は会社内の問題ではなく、PC需要が伸び悩んだこと、急激なラインアップの増加による収益悪化、台湾を中心としてOEM供給していたメーカーが自社ブランドとして販売開始したことも原因である。
最近はiPadの対抗機種として投入したタブレットPCは利益率が小さく、出遅れたことから救世主とはなり得ない。AndriodタブレットPCや携帯部門の競争力は未知数だがこれもSamusungの割拠する市場勢力に割って入るのはきびしい。PC部門の業績回復の打開策として小売店販売の拡張を試みたが完全に時代に逆行した。量販店にあったDellコーナーはいつの間にか無くなり、Dellロゴの黒Tシャツ販売員もいなくなった。
今後のPC市場はノートPCがメインになり、タブレットPCや10万円以下のローエンドPCか20万円を超えるハイエンドPCの二極化する。しかし、ネットブックとローエンドPCの価格差が減少しているため利益率が下がる傾向にある。Dellは、カスタマイズ可能、低価格、ロジスティック最適化による配送の短縮化などにおいて革新的であったが、今では一般化して差別化できない。現在の商社的商法は時代に逆行しており、Dellの躍進する元となった先進的な販売形態から見るとそぐわない。
結論として”PC is
Over”というIBMのCEO判断は現実のものとなり、PCに変わる物としてタブレットとスマートフォンが出現した。しかしこれらももう飽和に近くデフレビジネスでコモデテイ化を避けられない。これらを淘汰して生き残る物が世界を支配するだろう。生態系と同じく産業でも種の崩壊により新たなパラダイムが生まれる。
しかし電子技術でできることがやりつくされたわけではない。むしろやりにくい分野はほとんど手が付けられていないのが現実だ。諸行無常が繰り返されるであろうが、危機的な環境にある我々が一喜一憂している暇はないはずである。