その結果を誰もが待ち望んでいたエボラ出血熱感染の疑いが晴れてほっとした。リベリアからブリュッセル経由でロンドンから羽田入国した
カナダ国籍の邦人男性が発熱を訴えた。感染の疑いのあるこの男性は国際医療研究センター病院へ検査の為に搬送され、検査の結果、陰性であることがわかった。
リベリアから東京への道のりは長い。足取りを追ってみると封じ込めの意外な盲点が浮かび上がってくる。リベリアの首都モンロビアと欧州、北米は大手のエアラインが直行便を運行している。中でも便数が多くこの男性を含む多くの人が利用するのがブリュッセル航空のモンロビアーブリュッセル路線である。ブリュッセルからロンドンへ飛び、そこでANAのロンドン−羽田フライトNH278便に乗って羽田入りをした。
羽田発着の国際線が増便されたのは今年に入ってからだ。2014年3月30日より、現在の10路線13便(往復26便)から17路線23便(往復46便)へ大幅な拡大となった。これは国内線への乗り継ぎが弱点である成田に代わり、都心へのアクセスと国内便への乗り継ぎで大きなアドバンテージのある羽田の価値が高まっているためである。
羽田を拠点とするANAはロンドンー羽田間のフライトを増便したが、それがロンドンを19:35発、羽田15:30(翌日)着の278便だった。278便の機材はボーイング777である。長距離型300ERは双発ターボファンエンジンの2列通路のワイドボデイ機であるが、双発にも関わらず引退したジャッボジェット(747)よりも全長、翼巾が大きい。ちなみに撃墜されたマレーシア機、現在も行方不明のマレーシ機は777-200ERという長距離仕様である。
ファーストクラス8席、ビジネスクラス77席、プレミアムエコノミークラス24席、エコノミー席138席の配置で化粧室は10カ所(注)だが、ファーストクラスには専用の1カ所、ビジネスには4カ所、プレミアムエコノミーに2カ所、エコノミー3カ所があてられる。実際にはエコノミークラスでも前方を使うこともあるので計5カ所となる。問題の化粧室にあたる確率は1/5−1/3であるが、シートが前方にあるか後方にあるかで運命が分かれるかも知れない。後方なら確率は1/3だが化粧室の側にあるギャラリーで飲み物やお菓子をもらうし、化粧室前で待たされる間にCAと会話したりすることになる。化粧室にアクセスするのに通路を通る。この間の間接的な接触を考えたらきりがない。
(注)777-300ERのANA仕様の場合。JAL仕様ではファーストクラス8、ビジネス49、プレミアムエコノミー40、エコノミー147のシートとなり、ファーストに1カ所、ビジネスに4カ所、プレミアムエコノミーに2カ所、エコノミー3カ所の計10カ所となる。報道で化粧室が10カ所というのは間違いではないが実際にエコノミークラスの138名が使えるのは3カ所ということになる。
ここでひとつの問題が浮上する。感染者(と仮定して)が国際線を乗り継ぐとする。一昔前は国際線同士や国際線から国内便への乗り継ぎは遥かに少なかった。また昔は長距離路線では燃料を追加するために中継空港(たとえばアンカレジ)でいったん機内を追い出されて、待ち合い室に集められて再搭乗することが多かった。アエロフロートで欧州に飛ぶときは必ずモスクワに立ち寄るが、ここでは警戒が厳重で自動小銃の銃口を意識することになった。機体も厳重に警戒された。乗り継ぎ客はTransitと呼ばれ特別のカウンターで世話されるし、大げさな引き換えカードを渡されておおげさにいえば囚人のように見張られている感覚であった。
いまではTransitが死語になりConnecting Flightの表記が多い。それほど多くの客が乗り継ぎを普通にしているということだ。Connecting
Flightの乗客でも乗り継ぎ先がその国であれば、最初の空港でパスポートコントロールで入国となる。そのため赤外線センサーをパスポートコントロールに設置すればよいのだが、実際には検疫(機能していない)の一環なので、パスポートコントロールの前に設置されていることと、乗り継ぎ先が自国でない場合は、パスポートコントロールを通らない場合がある。
ロンドンヒースロー空港はその部類で邦人男性は赤外線センサーのチェックを通り抜けた。また実際には赤外線センサーで引っかかっても制止を振り切って逃げる乗客も実際にいるのだ。
厳密に体温の監視をするには、誰でも静止するパスポートコントロール前が最も効果的なのである。また赤外線センサーの画像処理を行うソフトの整備も緊急に必要になるだろう。