ドラッカーの数々の名言は後から考えてなるほど、と思うが先に読んで賢い決断をする人は少ない。「日本企業の弱点は経営者にある」という言葉の重みに思い知らされる事象がある。ご存知、オバマが国策として送り出した「シェールガス革命」である。
事例1:大阪ガスは2013年12月に、米国のシェールガス掘削で290億円を2014年3月期の特別損失とする。
事例2:住友商事は2014年9月、米テキサス州におけるシェールガスの開発事業で約1700億円の損失を計上。
事例3:伊藤忠商事は2014年10月、米国でのシェールガス・シェールオイル開発で2014年3月期の投資損失が約290億円と発表。
共通項は何か。投資に見合ったガス生産ができなかった。採掘量が採算ラインを下回ったのだ。これは予想外の出来事だろうか。経験を積んだ石油大手の商社がそろってここの事業で失敗したことは理解に苦しむ。意思決定プロセスに共通した問題があるのではないか。実は「シェールガス革命」は名ばかりの幻影にすぎなかったのだ。誤った分析とリスク評価を信用し、意思決定で勇み足を踏んだ経営トップの責任は免れない。そういえば書店に並んでいた「シェールガス革命」関連の書籍は片付けられ、公開が先延ばしになっていたシェールガス問題を取り上げたマットデーモン主演の映画「プロミストランド」がようやく公開になっている。
シェールオイルの掘削を採算ラインにのせるのは至難の業であることは最初から指摘されていた。水圧破砕法というのは地中深く(2-3km)縦穴をほり、そこから水平に掘り進んでは大量の高圧の水で岩に割れ目つくって、もとに戻らないように砂と化学物質で固定した後にガスを吸い上げる。また問題を複雑にしたのは当初は生産が順調に行きそのまま継続できるかのようにみえることだ。最初に賭博で勝たせてから詐欺師は仕事にかかる。専門家なら採算性が低く投資リスクが高いことはわかっていたはずである。
それでも投資に踏み切った理由は、やはり石油資源の将来性に危機感を持ったことで理性が曇ったのだろう。米国はすでに天然ガスに資源を切り替えつつあり、まるで天然ガスが化石燃料でないように宣伝するが、決して温室ガス排出が少ないわけではない。とても増え続けるエネルギーを供給するには足りないし、やがて枯渇する。
資源が枯渇したいま、残された選択肢は少ないが、誇大広告に騙されず賢い意思決定が望まれる。重大犯罪は少ないが詐欺にかけてはどの国にもひけをとらない日本だが、理性を失わなければ必ず詐欺は見抜ける。ドラッカーもそう言いたかったのではないだろうか。