ペイパル創業者のイーロンマスクはその後、EVのテスラモータースや宇宙ビジネスのスペースX社を立ち上げ、夢を着々と実現して来た。その彼が交通機関に触手を伸ばして来た。ハイパーループがそれだ。真空トンネルの中を音速を超える速度1200km/hで突き進むこの弾丸列車は、実現すればロサンゼルスとサンフランシスコを30分で結ぶ。ジェット旅客機の巡航速度は亜音速〜900km/hなので単純に考えて、フライトより早いが、空港までの移動と搭乗までの時間を考えれば、高速移動においては最速となる。
ハイパーループのアイデアすなわち弾丸列車は古くからあった。それもイーロン自身のアイデアでなく、テスラ社とスペースX社の技術者にロサンゼルスーサンフランシスコ間の高速移動手段のアイデアを募った結果だそうである。
ご存知のように上海空港から上海市近郊を結ぶマグレブ(磁気浮上)列車は最高速度430km/hで運行されている。常伝導磁石でエネルギー効率は悪く浮上はわずかに1cmであるが、既存の技術で430km/hの運用が可能である事を実証している。もちろん乗って楽しいかどうかは別で、速度を上げ下げがほとんどで最高速度を味わう時間は数分である。流れさる景色は明らかにオーバー300km/hで実感できる。430km/hともなればブガッテイバイロンでフルスロットルを与えるとこういう景色の流れになるのだろうな、という気持ちにさせてくれる。
一方でJR東海が建設を開始したリニア新幹線は超伝導磁石で地上から10cm浮上するので正真正銘の磁気浮上となる。空気抵抗に注意をしたと思えない上海マグレブと異なり、これまでの新幹線技術開発の結果である長い先頭車両や空気抵抗を減らす車体の細かい設計に後押しされ、500km/hと500km/hオーバーの入り口に立つ事ができた。
阿部が米国にその技術を無償提供する、という意味は化石燃料の枯渇によりさすがの自動車王国も公共交通機関として、高速鉄道網を考慮しつつ有り、特にLA-SFやNY-DC間といった大都市を高速で結ぶ計画が浮上しているからだ。技術を無償で提供する、というのは超伝導リニア新幹線をシステムで輸出してあげます、という意味なのだ。
イーロンマスクは考えた。LA-SF間の高速列車計画の予算700億ドルは高すぎる。もっと安い手段はないのか、と。彼の抱える技術者の提案は1桁少ない経費で建設でき、しかも前人未到の音速列車である。最近、中国の技術者がさらにマッハ2で運行できる列車を考えたそうだが、空気抵抗がなければジェット旅客機より有利なので、超音速も不可能ではないだろう。
ハイパーループの浮上機構の詳細は不明だが、超伝導リニアと組み合わせることも考えられる。空気抵抗を減らせばより高速に運行できるポテンシャルがある。最終的には圧倒的に安全で速度制御し易いリニア方式が決め手となるかもしれない。JR東海もそろそろアップグレードとして擬似真空トンネルに手をつけたらどうだろう。
ところで下に示すイーロンのアイデアスケッチには重大な間違いがある。あてて見て欲しい。