退役したスペースシャトルの代替えという名目でNASAが宇宙空間への人員輸送手段としてオリオン宇宙船を民間委託していることは宇宙ビジネスの記事でかいた。一方で打ち上げから1年以上(469日)地球を周回した無人スペースシャトルX-37Bが16日、米カリフォルニア州西部のバンデンバーグ空軍基地に帰還した。ミッションが明らかにされないまま、長期にわたって周回軌道にいたこの宇宙船の目的は謎である。
サイズ的にはスペースシャトルの約1/4のミニシャトルであるX-37Bの開発の歴史は意外と古く、1996年に開始されボーイング社が開発を担当したが、2004年に開発プロジェクトは軍に移管された。NASA予算の縮小と開発経費削減のためにいまでは多くの民間企業が「宇宙ビジネス」としてロケットや宇宙船開発を行っている。その意味ではこのX-37Bも民間主導でも良かったはずである。下の写真のようにカバーをつけてロケット先端部に取り付けて打ち上げられる。
しかしX-37Bにはひとつの軍事利用に重要な利点があった。X-37Bはスペースシャトルよりも長期間軌道上を飛行することができる。スペースシャトルの16日に対し270日滞在可能、実際にはそれを大幅に上回る宇宙滞在が可能である点である。これはエネルギー源として太陽電池パネルを用いた省エネルギー設計によるところが大きい。
太陽電池パネルにはいくつかの異なる材料のものが存在する。太陽電池パネルに使われる材料はシリコン系が主で あるが、原材料コストの点で当初は重金属が含まれる事から毛嫌いされていた化合物半導体材料も使われている。おもな材料はシリコン系で4系統(単結晶、多
結晶、アモルファス、微結晶)、化合物系では7系統以上(III-V、IV、II-VI、 I-III-V族半導体と類似化合物、酸化物など)の多岐にわたる。また有機系材料として色素増感型、有機薄膜型の開発が進んでいる。
化合物ではGaAs系、InP系などのIII-V族材料は移動度が高い性質を持つが、特にGaAs系は変換効率が最も高く宇宙利用などの特殊目的に使用されることが多い。X-37BはGaAs系の太陽電池パネルとリチウムイオンバッテリーを組み合わせた省エネ宇宙船である。
サイズ的には全長9m、スパン4.5m、総重量5tで現在は無人飛行というベビーシャトルであるが、将来は4-5名が乗れるX-37Cに移行するという。そうなると偵察や攻撃に使える長期滞在型宇宙船が実現する。傾きかけた経済支配に歯止めをかけるには圧倒的な技術力と軍事力に頼らざるを得ない米国。宇宙ビジネスならぬ宇宙軍事が加速しつつあるようだ。化合物半導体太陽電池パネルが意外なところで力を発揮してしまいそうだ。