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ゼロ金利と金融緩和政策を2006年に始めてから80ヶ月、56回目の連邦公開市場委員会(FOMC)は利上げを見送った。今年になって、米景気回復は順調で、毎回のように次回のFOMCで、利上げの可能性をイエレン議長は示唆してきた。
利上げをすることは、「金利の正常化」に向けての第一歩となるはずであったため、市場関係者に期待感があった。実に、アナリストやエコノミストの82%は1ヶ月前から利上げがあると予想していたのである。
利上げを見送ったことで、市場にこれまでのようにプラス効果があると思われた。しかし、今の段階では、米国経済はわずか0.25%の利上げさえ耐えられないほど脆く、今後の見通しが不透明であると市場は受け止め、不安が広がった。市場心理はハト派基調の発言はプラスからマイナスに、タカ派基調の発言はプラスと大きく変わったのである。
利上げを見送ったことで株価は下がり、米ドル安を招いた。対応策としてセントルイス連銀のブラード総裁は急遽、「FRBは永久に株価を上げることはできない」と声明をだした。その後、アトランタ連銀のロックハート総裁は年内中に利上げを実施する予定であると発言した。
ロックハート総裁は9月の利上げには反対したが、次回は賛成に回ると主張した。イエレン議長もFOMC後の記者会見では、年内に残されている2回のFOMC会後で利上げの可能性はあると発言している。だが、疑問に思われるのが、9 月と次回のFOMCが開催される10月もしくは12月の間に、利上げが可能な状況になるかである。
中国バブルの崩壊、EUの景気交代と移民問題の深刻化、新興国の景気交代と債務問題、中東の地政学的危機などの世界経済の状況がさらに悪化するであろうと思われるなか、米経済への影響は悪くなるばかりである。そんな中、今より10月もしくは 12月に利上げができる環境になるとは常識的に考えにくいことである。
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FRBはこれまで、金融緩和と利下げ策で景気回復を目標としてきた。その結果、資産バブルを招き、政府、銀行、企業、個人の債務は膨れ上がった。米国債務は18兆3966ドル(9月22日時点)に拡大、シェールオイルを中心とするエネルギー関連のジャンク・ボンドバブル、学生ローンバブル、不動産バブル、自動車ローンバブル、新興国によるドル・キャリートーレド債務バブルなど様々なバブルを作り出した。今後膨れ上がったバブルが崩壊するのは時間の問題。崩壊を招く引き金となる要因は数多くあり、特定することは難しい。
最新の米経済指標をみても、今後FRBが利上げすることは難しい。
8月の中古住宅販売件数は前月比で4.8%下がり、下降傾向にある。
S&P500企業収益は前年度比で2015年第1四半期は-2%、第2四半期は-5%、第3四半期は-5%、第4四半期は-2%と下降傾向にある。
2014年の実質家計所得の中央値は2013年の$54,462から$53,657に低下。2007年から6.5%も下がり、2007年以降下降傾向にある。
8月住宅着工件数は前月比で3%下回る。
マイナス金利とQE4
今回のFOMCメンバーによる金利見通しを示すドットチャートで判明したことは、史上初のマイナス金利予想がでたことである。ミネアポリス連銀のコチャラコタ総裁は、2016年年末までマイナス金利を実施する必要があると表明し、マーケットに衝撃を与えた。FRBに対する信用不安も強まった。
Source: FOMC
すでに、デンマーク、スウェーデン、スイスの中央銀行は、金利をゼロ以下のマイナス金利政策で景気回復に挑んでいる。イングランド銀行のチーフエコノミストであるアンディー・ホーダンも不況を避けるため、イギリスはマイナス金利策を実施、現金を廃止することを主張している。
FRBがゼロ金利で景気が悪化すれば、残された有効な手段として、マイナス金利策と再度量的緩和 QE4に踏み切るしか打つ手はない。しかしその時は、世界規模で金融危機が起きることになる。