Photo: SLASH GEAR
CERNの中心施設であるLHC(Linae Hdron Collider)はスイス、ジュネーブ郊外にある世界最大の円形加速器である。周長27kmというこの加速器はトンネンルこそ2000年に実験終了した加速器のものを流用しているが、超伝導加速空洞や4つの検出器グループを含む世界中の加速器研究者が英知を結集した施設。
これまでに7TeVのエネルギーで陽子ビームを衝突させ、標準模型の中で唯一未発見であり、素粒子に質量をもたらすとされているヒッグス粒子の発見とその性質の測定に成功、2013年のヒッグス教授のノーベル物理学賞に結びついた。
このCERNはその後休止してエネルギーを増大するためのアップグレード作業を受けていたが14TeVという前人未到の高エネルギー領域の衝突実験に向けて稼働を開始したところである。
ところでCERNにはヒッグス粒子の実験的な検証の成功以前に人類全体に大きな功績があったことは意外と知られていない。インターネットの発明である。Tim Bernerds-LeeというCERNの職員がWWW(Word WideWeb)を発明したのは1989年であった。もともとウエブの発想は高エネルギー科学者が膨大なデータを共有するためのものであった。1970年代後半には高エネルギー関連の研究所間は”Bitnet”というシリアル通信網で結ばれていて、当時は唯一のリアルタイム情報交換ができていた。
Photo: bytecollector
Bitnet端末はASR-33(上の写真)というタイプライター式のキーボードで、受信者はASR-33が打ち出すテキストを電報のような感覚で受け取っていた。世界初のウエブサイトのサーバーはBerners-Lee教授のものであった。記念すべき最初のサーバーはCERNに保存されている。
1993年4月30日にCERNはWWWソフトを公開し、世界中に劇的な拡散され今日のインターネットが確立された。
そのBerners-Lee教授はインターネットの当初の目的はデータの共有であったがGoogle、Facebookのように個人情報を吸い上げて集積しているのに、個人のアクセスが制限されていることに警鐘を鳴らしている。今こそ自分たちのデータを取り戻して真に共有する環境をつくるべきだとBerners-Lee教授は主張する。
一度アップロードされたデータは個人が容易にアクセスしダウンロードし自分のPCで加工することにより、有効にデータが使えるようになるべきだという主張はCERNが目指したデータの共有精神が損なわれている、ということだ。Google、Microsoft、Facebookなどの巨大IT企業はこぞってデータセンターを建設し、ユーザーのもであるべきデータを集積しそれを一部のみ開放して巨大な営業利益を出している。しかしそれはインターネットの精神に反しており、ユーザーはそれに気づいて真のデータの共有を目指すべきだという教授の警鐘は迫力がある。
GoogleやFacebookがデータ公開を制限していることに対してどのように考えるのか、という問いかけでもある。今後もこうした巨大SNSが現在のような使われ方でよいのか、それともインターネットの精神に向けて変革が求められるのか、考えてみる必要がありそうだ。
関連記事