ボーイングの超軽量ハイテク新炭素素材

16.10.2015

Photo: HRL Laboratories


ボーイングの最新型ドリームライナー78750%以上に炭素繊維が使われている。この炭素繊維の全てを東レが2021年までの16年間にわたり供給する契約となっている。日本の炭素繊維技術は世界一といってよい。実は米国も787用に炭素繊維の国内生産を目指したが、国産品の性能が東レ製品に届かず国内生産を断念したという経緯がある。


炭素繊維の使用は今後も増えるから(長期的にみれば)ボーイングの戦略にとって輸入は弱点であった。最近、米国の研究機関は炭素繊維開発をさかんに行っているが、このほどボーイングが大学(Cal TechUC Irvine)、企業(GM)と共同でハイテク委託研究開発ベンチャー(HRL Laboratory)を起業し超軽量の素材(microlattice)を開発した。


Microlatticeは中空の金属の骨組みがつくる格子でできているために軽量だが、さらに軽量にするために」骨組みも空洞になっているところがミソ。そのため容積の密度が0.9mg/cm399.99%が空気)で羽のように軽い。しかも柔軟で炭素繊維に代わる可能性を秘めたこの材料はボーイングにとって懸案であったハイテク素材の国内生産が可能になるかもしれない。中空の空気を考慮した実密度は2.1mg/cm3で空気の1.7倍でしかない。



Photo: current sagar

 

 

炭素繊維は軽く強靭だが787に乗ると剛性感が金属材料に比べると低い印象はまぬがれない。着陸時の衝撃で機体がきしむし、主翼は紙飛行機の翼のようにめくれあがる。しかしこれが新素材に求められる「しなやかさ」であり変形することに問題は無い。硬さで外力に逆らうのでなく、あえて変形しやすい軽い材料で外力や衝撃を吸収する。金属としてはニッケル燐合金でありふれたものであるが、パイプ状にした骨組みで格子をつくるところが新しい。すでに製法はトロント大学の研究者が2008年にみいだしていた。今回発表されたmicro lattice2011年にはCaltechUC Irvineの研究グループが発表したもので、なぜこの時期にボーイングが発表し直すのか不可思議だが、GMと共同で実用材料への応用のアドバルーンと思われる。

 

炭素素材はスーパーカーでも高性能を約束する先端材料であるが、現在は炭素素材は高価なので市販車に使われていないだけである。今回は車の材料として炭素素材を使いたいGMと国内で炭素素材を製造したいボーイングの思惑が一致して、共同で新型素材を開発することになった。


 

メデイアの記事にあるHRL Laboratoryは正確にはHRL Laboratories1997年からLimited Liability CompanyLLC)(注1)となったハイテク研究開発センター。HRLとは”Hughes Research Laboratories”の略、カリフォルニアマリブに拠点がある。HRL Laboratoriesはボーイング向けの炭素素材のほかに、NASA向けの宇宙専用素材や、ドローン用の超軽量材料の開発委託も行っている。

 

(注1)米国の州法に基づいて設立される企業体。米国のLLCは英国ではLimited Liability PartnershipLLP)と呼ばれる。出資者は、出資額を限度としてのみ責任を負い、LLCの債務に対して直接責任を負うことはない。出資者は事業リスクを背負ないこと、LLCの企業所得は課税されないこと、構成員所得として構成員(Member)に課税されること、などの柔軟性から米国各州でさかんな企業形態。