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イーロンマスク率いるテスラ社のモデルSはEVの航続距離を483kmに引き上げたことで日産リーフなどを寄せ付けないが、その秘密はPC用のリチウムバッテリーにあった。週あたりのタイプSの生産台数は6,000台から1,000台に引き上げられ好調な販売が続いている。
革新的な性能にもかかわらず優雅なデザインで独自の市場を開拓したテスラ社は2モーターSUVで次のステップに進んだ。口下手なイーロンマスクが自ら登場したお披露目の舞台で彼が主張したのは「最も安全なSUV」だった。写真のSUVで目立つのは後部座席がスーパーカーの証であるガルウイングであることと、ドアミラーがないことである。
これらは実は安全性に関わるタイプXの装備のひとつにすぎない。ドアミラーは視界が限定されしばしばレーンチェンジでブラインドスポットに入った車と衝突の危険性があった。タイプXでは空力的にも悪影響で駐車場でも邪魔になるドアミラーを廃止して全周囲をTVカメラ、レーダー、ソナーで監視する全周囲アクテイブセーフテイを実現している。
これによってドアミラーの死角をなくすことで空力と安全性が同時に向上したとしている。スーパーカーのガルウイングはヒンジ部分が窓の上あたりにあって開くときに注意が必要であったが、テスラ社のガルウイングはファルコンドアと呼ばれるもので、ヒンジ部分が屋根の中央部にある。
このために回転して開くときの軌跡が狭くむしろ両側のスペースが少ない駐車場で隣の車にドアがぶつかる危険をなくした。また後部座席に乗り込む際に開口部が大きいため乗り降りが楽である。特に高齢者や身体障害者の乗り降りには非常に便利な仕掛けである。
Photo: Tesla Motors Club
このほかにも安全性を高める機能が満載されている。横方向からの衝突試験では最高の成績を収めた。走行性能もタイプSゆずりで90kwhバッテリーで航続距離450km、100kmまでの加速が3.8秒という高性能2モーターAWDである。
おもしろいのはHEPAフィルターを装備していて普通の車にある換気オン、オフモードのほかにバイオセーフテイモードがある。バイオハザードマークのボタンを押すと、HEPAフイルター機能で外部からの微粒子やウイルスをシャットアウトするこの機能は観客の笑いを誘ったが、大気汚染の大都市では必要な装備であることに異論を唱える人はいないはずだ。
結局、テスラ社はEVをファミリーユースを含む都市型SUVとしたが、園際にちゃっかり(日本車を意識して)7シーターとした。すでに8,000台の予約が入っているモデルXの納車は始まっており、同社の販売に寄与することは間違いない。イーロンマスクの特徴は技術を安全性と快適性能に向けて挑戦的に新しい技術を取り入れた車を市場に投入する点である。
これまで車業界はモーターショーで先端技術を垣間見せながら少しずつしか市場に投入しなかったが、その保守性にユーザーが飽き飽きしたのだろう。先端技術があるならそれを装備した車が欲しいという心理を利用したイーロンマスクを止められないだろう。EV車にも充電インフラなど現時点で弱点はあるがそれを上回る先進設備で購買欲を誘う。かつての日本車がそうであったのかもしれない。
カッコいいガルウイングを改良すればファミリーに優しい安全装備になるなど日本のメーカーの技術者が考えることはない。ガルウイングの精度を上げないと市販車の装備にならない。そうするとコストが上がる、いいアイデアだが却下されることを知っているからである。しかし安全装備は値段がつけられないから、便利で快適、安全であれば売れないはずはない、とマスクは考えた。セオリー通りの方が平凡な結果に終わってしまう。アイデアを自由に提案できる環境に技術者を置いてみるべきなのではないか。そろそろ車の価値観にも変化の兆しが見え始めたように思える。