国と企業が隠蔽する米国の環境汚染

Sep. 30, 2015

Photo: NBC4


米国ロサンジェルス(LA)が放射能汚染地区だった事実はNBCの南カリフォルニア地方局(NBC4)の調べで明らかにされた。


LAの中心に近いSan Fernando ValleySimi Valley地区(上の地図参照)に住む住民は放射能と化学物質によう汚染に悩まされている、という報告の経緯の発端は50年以上前にさかのぼる。


この地区にあったSanta Susana Field LaboratorySSFL)は1947年に原子力とロケットエンジンの燃焼テスト実験のために設立された民間研究施設。SSFLでは新型実験原子炉の試験とロケット燃焼試験が行われてきた。


結果的に施設の成果は近代的な原子炉設計による原子力利用の優位性と月ロケットに代表される宇宙利用での優位性を確立するために寄与したが、住民への悪影響が同時に進行していた。原子炉から定常的に排出された排気ガスとメルトダウンという最悪の事故を起こした(注1)際の緊急ベントによる放射性物質の大気中への放出と土壌汚染。また劇物であるロケット燃料漏れによる化学物質汚染で二重に汚染された事実が長い間政府と企業によって隠蔽されてきた。


(注1)事故を起こしたナトリウム炉は「もんじゅ」と同じ高速増殖炉。液体ナトリウムを溶融させて冷却材に使う。高速中性子を利用するため軽水炉と異なり燃料の増殖が可能など魅力的だが、反応性の高いナトリウムを使うことで技術的難易度が高い。


SSFLは地図にあるようにふたつのValleyの境界にありSimi Hillという丘の頂上付近に立地する2,800エーカーの敷地を有する。その起源はNorth American Aviatio社の開発で当時はLAと隣接するヴェンチュラ郡の土地開発地区として成長中であった。しかし現在は50万人の居住者がおり人口が密集したLA中心にも近い。


SSFL1947年から運用を開始し、現在までに10基の実験用原子炉が建設され、ロケット燃焼実験が頻繁に行われた。SSFLは民間組織ながら企業の合併と買収により所有者が変遷を繰り返し、一部は米国政府が利用したこともあった。


SSFLの原子炉は原子力規制委員会の管理を経て現在はエネルギー省に属している。1945年から始まった「原子力時代」のもとでNorth American Aviation社がここにロケットエンジン開発の秘密実験施設をつくった。1953年に原子力規制委員会は「エリア4」と呼ばれる地域をここに設置して、10基の実験炉とプルトニウム、ウラン核燃料を扱う設備を整備する。残りのサイトでは30,000回に及ぶNASAロケットの燃焼実験が行われた。


 

Photo: ATSDR

 

1959年にはSSFL実験炉のメルトダウン事故を起こし緊急ベントで大量の放射性物資が大気中に放出された。また定常的な核汚染によって土壌の放射能汚染が深刻な住民の健康被害を生むこととなった。政府と企業は一貫して汚染の事実を隠蔽してきたが、汚染の事実が明らかになると、放射性物質と化学物質による汚染土壌の、除染作業が行われることになった。責任の取材がはっきりしていないため進展が遅い。

 

原子力規制員会は原子炉設置と運用の責任を負うはずだがエネルギー省に管轄が変わった。ロケット燃焼実験はNASAの委託事業であった。ロケット燃焼実験を行ったNorth America Aviation社はボーイング社に買収されたが、のちにボーイング社も手放し何度かの買収と統合を経てエアロジェットロケットダイン社となった。現在はボーイング社が除染に取り組んでいるが住民の満足するような環境には程遠い。

 

役所も運用母体も変遷を繰り返す中で汚染は進み手がつけられない状態になったSSFLの環境保全問題はLAの住民を脅かすまでになった。国と企業が絡む訴訟では事実関係を明らかにするのに長時間を要し、住民の健康被害など緊急の要請に応えることができない。SSFLの事例は地方自治の強化が必要になっていることを示すとして注目を集めている。