豊かではないが平和に暮らす米国の田舎町に降ってわいたシェールガス掘削騒動を描いたマットデイモン主演の映画"Promised Land"が公開される。Promised
Landの意味は旧約聖書に書かれた神がイスラエルの民に与えると約束した土地のことで、エジプトからユーフラテス河までの肥沃な土地が、エジプトを脱出した神が約束したアブラハムの子孫に与えられるとされる。現実には、期待されたシェールガス掘削の結果で、住民の故郷は神が約束した土地とはかけ離れたものになった。
エネルギー(石油)枯渇に最も近くなっても、原発を増設できない米国政府が、新エネルギー政策として強力に推進しているシェールガスには、最初から光と陰の部分があった。光の部分は北米の埋蔵量が多い点である。事実現在、シェールガスおよびシェールオイルの生産量の99.9%は北米に集中しており、採掘量でいえばまさに米国独占の印象だ。
シェールガスは取り出すのに高圧の水を使う(水圧破砕)。縦穴を掘って自然の圧力で地表に押し出される原油と違い、シェールガスは特殊な物質と砂を混ぜた水をとてつもない量で横穴に注入して、搾り取る。掘削してもその地点はすぐ枯渇するので縦穴を場所を変え
ながら掘り続けなくてはならない。掘削費用コストも高い。投資が続いている中で、掘削企業の破産があとをたたないのはそのためだ。価格に掘削コストは上乗せされるので、一般庶民は高い代償を支払う事になる。
水圧破砕というとクリーンな水に圧力をかけて破砕するイメージだが、実際
には一箇所の採掘現場で必要な水は3,000〜10,000立方mであり、採算のとれる数1000本の規模で採掘すれば、周辺の水資源は枯渇する。また用いられる流体は水90.6%、砂、その他化学物質0.44%で構成される。この「その他の化学物質」は企業秘密であり安全性は確認できない。
地下に溜まった大量の水は、地盤
を弱くして地滑りや崩落により広い地域に致命的な打撃を与える。シェールガスの岩盤は数十倍深いので地下水に影響はない、とされるが現実には掘削が開始された地域で水質汚染が問題となり一部の住民は避難を余儀なくされている。水圧破砕による環境汚染、環境劣化のリスクは地震の誘発、水質汚染、大気汚染の様々なリスクが上げられている。水圧破砕により地盤が緩み活断層を活発化して地震を誘発するといわれており、実際に採掘が行われている英国ランカシャー州で水圧破砕によりM3程度の地震が発生している。
ブルース・スプリングステイーンは歌の中で、少年が米国民としての責任を取れる大人になったことを" I believe in a promised land"という言葉で表現している。米国人の心の支えだった"Promised
Land"はシェールガス掘削で消え去ろうとしている。