落ちた水爆
スペインのフランス国境に面したカタロニア州が独立派の勢いがとまらない。スコットランドの独立は住民投票の結果、かろうじて独立反対派が勝利したが、賛成派はほぼ互角の票で反対派に迫った。このため独立は免れたが自治権を拡大することができて、今後の英国政府は内部に火種を抱え込むことになった。一方、カタロニアでは住民が独立のために団結が強まり予断を許さない状況である。
スペインは冷戦さなかの1966年にカタロニアと同じく地中海に面したアンダルシア州のパロマレスに、水爆を4基搭載した米軍機B-52が墜落した。積んでいた4個の水爆の3個がパロマレスに落下、1個は沖合に沈んだ。
地上に落ちた水爆の2基は起爆装置が爆発し(注)ウランとプルトニウムが飛散して豊かな農場地域を汚染した。米軍の除染チームは1750トンの土を米国に持ち帰ったがいまなお500gのプルトニウムが未回収で立ち入り禁止が続く。海底に沈んだ水爆は米軍が回収に成功した。
(注)水爆は重水素の核融合の起爆に原爆を使用するため、原爆が正常に爆発しない限り、水爆としては機能しない。起爆には通常火薬が使われるが誤爆を防ぐために複数の安全装置がついていて、全てがクリアされなければ核爆発が起こらない。衝撃で火薬が爆発しても水爆が爆発しなかったのはこのためであるが、放射性物質が飛散することの危険性は残る。
パロマレスの付近の農民はその後も作業をしていたが政府の発表では基準値を下回るとされた放射戦値は、実際には規制値の数十倍であった。また食品にも汚染の影響がでたためペイン政府は買収した土地の回復策と費用分担について米国と協議している。政府要人が安全性をアピールするために泳いでみせたが、住民達の怒りを増す結果となった。
安全をうたう政府の対応に住民の反撥が高まっている。地中海のリゾートでもあるこの地域の海岸に訪れる観光客への風評被害は深刻だが、最も大きい問題は政府の無責任な対応で、住民の心に政府への不信感が芽生えるきっかけともなった。
しかし2007年のリーマンショック後に財政が悪化し2009年にはGDPが-10%以下に落ち込み、政府破綻(ソブリンリスク)の危機を迎えて、税金に苦しむ住民の政府への不信感は急速に高まった。もともとカタロニア州は中世には君主国家であり、自主独立のDNAが流れていたのかも知れない。昨年は50万人以上の独立派がデモをし、住民投票は避けられない。パロマレスの呪いというべき水爆汚染の経緯は少なからず、独立運動に影響を及ぼしているのではないだろうか。