ドイツビールはモルトの風味が強く、ホップとのバランスがよくとれているのでビール好きにはたまらない。ドイツのビアホールは住宅街にひっそりと隠れていてそれらしい看板はみつけることができない。
ジョッキサイズはピルスナーがグラスである以外は、0.5リットルか、1リットル単位である。筆者は(若い頃)1リットルサイズのバイツェンを立て続けに3杯飲んだ記憶がある。そのミュンヘンは最近、脱原発で再生可能エネルギーに熱心である。何が起こっているのだろう。
経済的にはドイツが支えているといってもいいEUは、2020年までにエネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合を20%にするという。導入目標は国毎に決められていて工業生産の多いドイツは18%となっている。
福島第一原発事故の後,ドイツでは世論が大きく脱原発に傾いた。しかし現状の再生可能エネルギーによるエネルギー供給の内訳を見ると,47.1%がバイオ燃料の熱であり、風力(13.3%)、バイオ燃料の発電(11.9%)、水力(7.4%)と続き,太陽光(4.1%)や地熱(2.0%)は意外と少ない。バイオ燃料は化石燃料の「卵」ともいえるので、再生可能とは言いがたいが、分類上はそうなっていて再生利用エネルギーの代表格である太陽光は割合が少なかった。しかしミュンヘンでは事情が異なるようだ。
ドイツの再生可能エネルギー市場の成長を牽引してきたのが、太陽光発電と風力発電であるがミュンヘンの再生可能エネルギー割合は37%にも達し、ドイツ国内をリードしている。何故、ミュンヘン市が再生可能エネルギーにこだわったのかはビール醸造と関係なくはなさそうである。
というのもミュンヘンはビール醸造に決定的な影響を与える水質保全を優先しているからである。エルベ河に原発から汚染水が流入して放射能汚染を引き起こした事件は記憶に新しいが、ミュンヘンにとっては水質汚染は生命線である。ドイツ国内の原発は日本のように海沿いではなく川沿いに建てられるが、川の汚染は絶対あってはならないことだったのである。またバイエルン州はワインの産地でもあり農産物保護の絶対条件のもとで住民の脱原発意識が高かった。
また政策的にも太陽電池パネル見本市を開催して太陽電池パネルの普及を推進するには好都合である。しかも大手のSiemens社本部がミュンヘンにある他、ミュンヘンには、再生可能エネルギーの普及促進のための世界最大手の再保険会社であるミュンヘン再保険会社がある。
官民一体で共通意識のもとでベクトルを揃えることで37%という再生可能エネルギー率を達成した。さらに電力を販売する会社はドイツ国内に900社あるといわれる。関連企業や保険も含めた層の厚みが際立つ。
日本はどうか。経済産業省がまとめた今夏の電力需給予測では、電力供給の予備率(電力の最大需要量に対し、電力供給にどの程度の余力があるかを示す比率)は原発稼働ゼロで(沖縄を除く)全国平均の4.6%は、安定供給にとって最低限必要な3%は上回る見通しだが、将来の計画がみえないままである。
脱原発は住民の総意であるにもかかわらず、再生可能エネルギーの組織的長期的な取り組みがなされていない。ドイツは毎年25,000人が博士号を取得する。一般住民の知的レベルが高くなれば脱原発意識も高くなる。
日本ではいまだに再生可能エネルギーの具体策がないまま、原発推進派と反対派が争うばかりである。バイエルン州は歴史的に領主の力が強く、相対的に自治性が強いこともあるのかも知れない。ビール以外にミュンヘンに習うべきことは多そうである。