ワンワールドの住み心地とは

Aug. 22, 2015

Photo: Portland Bridges Co. 


世界は望むと望まないに関わらず次第にワンワールド(世界統一政府)へ向かっている現実は否定できない。ここでいうワンワールドはジョンレノンのイマジンのような国境のない理想郷ではない。その世界で人間らしい生活をしようとすれば1%の富裕層あるいはさらに裕福なスパーリッチ層でなくてはならない。そんな富裕層のためのマンション型豪華客船が上の写真のThe Worldである。


この船に居住するにはきびしい資格審査の末にマンションのオーナーになる必要がある。マンションの価格は60万ドルから1,350万ドル。マンションの管理費は150万円を支払う。


通常の豪華客船と同様に船には趣向をこらしたレストラン、シネプレックス、図書館、ジムなど生活に必要な施設はなんでもある。The Worldたる所以は世界中をクルーズし続け洋上と停泊地で暮らすため、いかなる国にも所属しない国境のない生活ができる。世界の国境を越えた難民たちとも、また紛争や経済恐慌、異常気象や感染症の恐怖から逃れ、映画「イリジウム」のような安全で快適な生活ができるだろう。


ただし不自由のない世界に飽きることがあるかもしれない。そういう時は停泊地で街に繰り出しては現実の世界に舞い戻ることも選択できる。人間はしかし裕福な家庭に満足できずに、無味乾燥とした生活に愛想をつかすかもしれない。スリルや快感はリスクと隣り合わせでしか得ることができない場合が多い。


一方、マンションの価格を下げて洋上により多くの人間が生活する空間をつくろうとする動きもある。海上都市と呼ぶのがふさわしい船では都市で起こる通常の生活が体験できるので、よっぽどの「箱入り」でなければ、より現実に近いこちらの方を好む人も多いのではないだろうか。いわゆる「壁マンション」に相当する海上都市はThe Worldマンションオーナーからみれば、安アパートにみえそうだ。



Photo: Wonderful Engineering

 

最後に紹介するもうひとつのThe Worldはドバイの海岸に埋め立てで世界を模してつくられた人工島である。人口島は全体としてみれば世界地図を模していて各地の名前が付いている。20045月から売りに出された島々は未完成ながら半分以上は買い手が決まっているという。

 

海岸に近いThe Worldの住民は私有地に住みつつ必要な時にはドバイに上陸すればショピングや病院など大都市機能が利用できるので、これも船と同じような感覚で安全で快適な生活を楽しめるという。しかしドバイのThe Worldの現在の問題はリーマンショックでドバイの不動産バブルが破綻し、その建設が停滞していること、さらに埋め立て地の避けられない問題である地盤沈下である。

 

現世から遠く隔てられた感すらするThe Worldでも避けられない問題があったことは皮肉である。もしかすると予想しない問題が船のThe Worldでも起こる可能性は否定できない。あまりの単調な生活に飽きて精神状態を病み意外に早い生涯を終えるとか、精神疾患がかえって増えるとか、長期の宇宙飛行士と同様な様々な問題が考えられる。

 

「イリジウム」では富裕層がイリジウムで受ける先進治療を受けようと地球に残された貧困層が治療を受けるために暴動を起こす結末だが、人間性を無視したワンワールドは意外とつまらないものなのかもしれない。ふたつのThe Worldは実験的な意味でのワンワールドであれば、10年後の「結末」は興味津々である。