中東の未来型スマート都市の理想と現実

Sep. 4, 2015


マスダル

未来型都市マスダルはペルシャ湾に面した、アブダビの30km東に位置する新都市であるが、これまでのエネルギー消費型都市でなく環境保護を念頭に置いたエコ都市が売り物である。


その精神は再生可能エネルギー(太陽光や風力)だけを使い、計画的にリサイクルを行うことで、温室効果ガスを排出せず、廃棄物を出さない世界初のエコ都市を目指している。


この都市には車の乗り入れは禁止で市内も公共交通機関(新交通システム、PRT)に依存する。都市のビルは太陽光でエネルギーをまかない直射日光を避けて人々の行き来は空調された空間となる。



Photo: l-a-v-a.net

 

マスダルには総額(推定)220億ドルが投入される予定だが、建設は一足早く国際空港やF1サーキットを含む複合娯楽施設の方が先行している。アブダビ空港は中東御三家エアラインのひとつであるエテイハド航空の本拠地で年間利用者数は4,000万人となる。4,000m級滑走路が2本、エアバス社A380の離発着が可能なターミナルを有している。なおUAEにはエミレーツ航空の拠点、ドバイ国際空港もある。

 

マスダルの都市計画は研究機関と居住区を隣接させた未来型都市構想として、ロシアのノボシビルスクや日本のつくば市など科学技術都市の先輩格に共通するものがあるが、再生可能エネルギーに100%依存するエコ都市構想ははるかに先進性が高く、今後の世界の都市計画の模範となる可能性を秘めている。

 

電力供給は40-60MWクラスのメガソーラーを中心に130MWを太陽エネルギーで生み出す。マスダールでは生ゴミは有機肥料として栽培に利用され、焼却炉の排熱は発電に利用する。加えて産業廃棄物はリサイクルにより廃棄物ゼロの世界初の都市となる。

 


 

KAEC

KAECとはKing Abdullah Economic Cityの略。写真はその中心に位置する金融街KAECはサウジアラビアのアブドラ国王が自分の名前をつけて紅海に面したサウジアラビアの新都市である。

 


Photo: henninglarsen.com

 

 

サウジアラビアにはすでに紅海に面した経済都市ジッダがある。ジッダはメッカへの入り口でもあり、アブドラ国王が設立した科学技術大学をはじめとする高等教育機関が集中する学術の中心でもある。

 

KAECの計画はアラブ首長国連邦(UAE)の新都市マスダルに対抗して計画されたが、中東マネーの投資対象とはいえエネルギー消費型の典型であるドバイとは異なるインテリジェントシテイの流れがみえる。日本でも規模は比較にならないが柏スマートシテイがある。

 


脱原油輸出国

KAECの特徴は港湾と工業団地を持ち自国で生産した原油を原料として化学製品をつくりだし、輸出産業を育成する政策が背景にある。オイルマネーの投資先としてドバイに代表されるエネルギー消費型都市に限界があることを学習した湾岸諸国は原油から製品の輸出で持続性を得る方向に舵を切ったのである。

 

ただし先進国の後を追うために原油にエネルギーを依存すれば、輸出量が減りシェールオイルとの競争が続く原油市場での競争力を低下させることになる。そこで科学技術開発に取り組み再生可能エネルギーを使い、原油に依存しないクリーンエネルギー都市を建設する政策にでた。マスダルやKAECはそのモデル都市としての性格を備えている。KAECには大規模な化学プラントが予定されている。

 

KAECはドバイを意識した街づくりが進行しているが工業団地を持つ「製品生産能力」を有する点で一線を画する。すでにはじけたドバイバブルから学んだ結果だ。

Photo: Pakistan Defence

 

理想と現実

先進国では再生可能エネルギーへの転換は既存利権(原子力、火力)の障壁で進展が遅れているが、日射条件で有利な中東諸国で一足早くエコ都市が実現する可能性がでてきた。捨て去るべき技術や文化を持たない国の特権ともいえる。

 

 

しかし現実は厳しい。2014年でKAECの完成度は2割。科学技術開発にはドバイの建設並みに資金を投入する必要があり、姿が見えないもの、科学技術に投資するには勇気がいるのだ。中東が目先の利益を追うだけだとしたら未来型都市は計画倒れになるだろう。技術開発は一朝一夕にはいかないことを認識し、根気よく続けなければ未来型都市は砂漠の蜃気楼となるかもしれない。