ECBの新たな債券買い入れでリスク増大

23.07.2016

Photo: The Business Times

 

  ECBは6月に、量的緩和プログラムの一環として、851億ユーロ(98716億円)の債券を買い入れた。国債のほか、6月からは新たに社債の購入を開始し、国債と社債を合わせると、ECBの債券保有残高は1.08兆ユーロである。

 

 債券購入にあたっては、購入ルールがあるため、今後ECBは購入可能となる対象となる債券が減少するなか、債券購入規模を縮小するか、購入規定を緩和するかの対策を取ることになる。それは、投資資金は安全な資産に集まることから、ECBが購入できる債券が少なくなっているからである。

 

 

リスクの高いソブリン債

 購入対象となるソブリン債はリスクが低く、債券利回りが現在の欧州銀行預金金利-0.4%より高いものに限定される。安全なソブリン債としてドイツの国債が購入されている。多くの安全なソブリン債に投資資金が集まり、利回りは購入対象外となる水準にまで下げていることから、今後購入可能なソブリン債が無くなる事態も考えられる。

 

 社債の場合、欧州企業が発行する社債で、投資適格級の各付けを受けているものが購入対象となる。条件を満たす社債は大手企業に限定されことから、債券買い入れプログラムの経済効果が疑問視される。

 

 

ルール緩和でEU分裂の可能性

 ECBは債券購入のルールの緩和を検討し始めた。ソブリン債の購入ルールを緩和すれば、スペインやイタリアなどリスクが高いEU諸国が恩恵を受けることになる。しかし、債券購入プログラムは、EU加盟国の財政を支援する行為として、これまでドイツを含め数カ国で、EU条約や自国憲法への違憲性を巡って高等裁判所で争われてきた。社債を巡っても、デフォルトの可能性がある社債を購入することになる。

 

 今後は、よりリスクの高いソブリン債や社債にまで債券購入を拡張するかが論点となる。欧州における金融危機が深刻化すればするほど、EUのなかでの対立構造が明らかになる。財政危機に直面している国と各国の財政赤字を最終的に最も負担を負うドイツの対立構造が鮮明になった。ドイツは債券購入条件の緩和に反対姿勢をとるとみられ、これをきっかけにEU分裂リスクが増大するが懸念されている。