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ブラジルのジルマ・レセフ大統領に対する弾劾裁判の開始が下院に続き上院でも決まった際(5月12日)、レセフ大統領は「私は重大な不正の犠牲になった。これはクーデターだ」と反論した。上院の特別委員会は不正疑惑に関して調査を行う予定である。しかしその前に、ブラジル最大のファルハ・デ・サンパウロ紙(Folha de Sao Paulo)は23日に自社にリークされた秘密録音テープの内容を公開した。レセフ大統領の弾劾を追求する人たちとその真の動機が明らかにされた。
弾劾裁判の開催中最長180日間大統領職務は停止となり、テメル副大統領が大統領代行に就任する。証人喚問を経て、罷免するかの決議が議会で行われる。
ブラジル最大の汚職事件
国営石油公社のペトロブラスを巡る賄賂やマネーロンダリングで多くの政治家、官僚、企業幹部の関与が疑われている汚職事件である。政治家に総額16億ドルが渡ったとされる。2年前から、オペレーション・カーワッシュ(洗車作戦)と呼ばれる汚職捜査で、元大統領や与党の労働党 (PT) と連立与党の多くの党員が汚職捜査の対象となっている。ペトロブラスの幹部は取引先と水増し契約を繰り返して裏金をつくり、それを幹部や政治家が違法に受け取っていたとされる。
録音テープの内容
75分間に渡る匿名の録音テープの中の会話で、ロメロ・ジュカ企画・予算管理相とペトロブラスの子会社のセルジオ・マシャド(トランスペトロ元会長)の2人が捜査対象となっているペトロブラス汚職捜査を停止するには、大統領を弾劾することしか方法はないと話している。
さらに、ペトロブラス汚職捜査対象となっているテメル暫定大統領と新内閣の閣僚に対する疑惑追求をやめさせるには、ペトロブラス汚職捜査の停止が必要であると述べている。
録音内容の最も注目する点は、会話の中でジュカ氏は「ブラジル軍もこの計画を支持している。弾劾が遂行されることを保証した。」との発言である。また、弾劾が政権転覆ではなく、正当な政治的手段であったことを正当化するために、複数の最高裁判官の支持も確保したことを述べている。
弾劾はクーデター
レセフ大統領は弾劾を「クーデター」と呼んでいるが、主要メディアや軍の支持、国の司法権を担当する最高機関である最高裁判所の裁判官の支持を確保しての大統領の弾劾はまさに「クーデター」である。録音テープにより、レセフ大統領の弾劾は、ブラジルにおける汚職を排除する動きではなく、汚職捜査対象となっている政治家や企業幹部が結託して、汚職疑惑から逃れるための手段であったことは明白である。
録音テープの報道を受け、ジュカ氏は職を辞任した。テメル大統領代行、代行政権の閣僚数人も汚職事件への関与で捜査対象となっている。財政赤字の拡大、景気後退、治安悪化などの状況の中で、ブラジル国民の政治不信と政治混乱は今後さらに拡大していくことは避けられない。