ボーイング社が部品供給業者に支払い延期

26.07.2016

Photo: bloomsberg

 

ボーイング社とエアバス社の2大メーカーは120座席以上の大型ジェット機市場を独占しているが、2014年のほぼ互角の受注数だった2社の競争は激化し、2015年にはエアバス社がボーイング社との差を広げつつある。危機感を払拭するためボーイング社は新型機を立て続けに発表しそれぞれのカテゴリで巻き返そうとするが、新型機開発は財政負担となり同社の経営を圧迫している。

 

最近、スペインのエアライン(Air Europa Lineas)とドイツの旅行業社(TUI AG)から総額35億ドル(日本円にして約4,200億円)の受注を得たが、それでも実情は部品供給メーカーへの支払いが滞っているほど、キャッシュ不足に陥っているようだ。

 

ボーイング社の部品供給メーカーであるロックウエル・コリンズ社は先月末2016630日)の時点で、ボーイング社の支払いが、3,000万ドルから4,000万ドル(日本円にして約36億円から48億円)の支払い滞納があることを認めた

 

 

一方的な支払いルール改定

ボーイング社はこれに対してロックウエル・コリンズ社と支払い時期について調整中であるとし、支払頻度を業界水準に合わせるためで支払額に変更はしないとしている。しかし過去を見ればボーイング社の部品供給メーカーへの支払の安定性には定評があり、今回の異常な支払の遅れは過去に例のない事態であるとして、航空業界に波紋を投げかけている。

 

ロックウエル・コリンズ社はボーイング社の最新機種全てに操縦席表示装置と電子機器を納入しており、同社との関係は深い。そのためボーイング社の旅客機の全てと一部の軍用機向けに、デイスカウントを行い大量供給の部品供給契約を結んでいた。ボーイング社はこれに対し30日間隔での支払いを常としていたが、部品供給会社に対して60日、90日、最大で120日の支払い頻度に変更しようとしている。

 

 

ロックウエル・コリンズ社の財務担当部門はこれにより同社のキャッシュ・フローが最大5,000万ドル(日本円にして約60億円)減となると予測している。ボーイング社の支払の遅れは業界関係者に衝撃を与えている。最近ではドリームライナー787777X737MAXと立て続けに新型機を発表、エアバスの大型機路線(A-380)に背を向けた、採算性の良い中小型機路線を貫く手堅い開発方針が成功したと思われていた。

 

しかし中国や欧州からの大量発注にもかかわらず、キャッシュ不足に悩んでいる。JALANAといった顧客エアラインも一部にエアバスを発注するなどシェアの低下、新型機開発が重なったことによる過大設備投資、そしてエアバス社が互角以上の競争力を備えるようになり利益が減った。背景にはこれまで同社の独占を支えてきた米国の国際政治力の低下でトップ・セールスが力を失ったことがある。また最新の軍用機・旅客機の開発コストの高騰も背景にある。

 

 

 ISource: Boeing

 

最近の航空機は部品の供給を世界中の部品供給メーカーから行うため、製造にはサプライチェーン拡大が必要になる。787の場合、機体の35%が日本製のためMade with Japanと揶揄されるほどである。ロシアや中国でもボーイング、エアバス社と競合する中型機を国産しているが、エンジン、アビオニクス、ドア、車輪などは輸入に頼る。また航空機の構成要素で最も高額なエンジンは英国ロールスロイス、米国GE、プラットアンドホイットニーの3社独占で、これらの企業からの購入となる。つまり巨大なサプライチェーン(上図)の維持と購入コストを差し引くと利潤は想像以上に低い、いわば部材を組み立てるフォックスコンのような構造になっている。

 

 

 複雑化し電子回路や新素材など研究開発費がかさむ部品が増えた結果、機体開発コストは膨れ上がる一方である。製造コスト高騰で製造メーカーの利益率が下がる点で、どこか原子炉ビジネスと似ている。

 

追記:この記事を書いた後の7月27日のウオールスリートジャーナル(電子版)で747-ダッシュ8(下記の記事参照)の生産を9月から減産し、受注がなければ生産中止とするという。中東エアラインで支えれたA-380も生産中止となるので、大型機カテゴリは両者ともラインアップがなくなる。何れにしてもボーイング社のキャッシュ不足は相当なものらしい。軍用機と宇宙部門があるので外国企業の買収は有りえないが、民間機部門を切り離して売りに出す可能性は残されている。

 

大型機の生産は部品数も多く、上図では747-8は777の2倍、部品調達と組み立てに時間がかかるため採算性は低くなるものの、A-380が消えるという大型機市場を独占できるというのに、看板であったジャンボ機を消滅させるというのは大決断である。エアライン大手が採算性の良い双発機を採用していく流れに逆らえないこともあるのだろうが、短期的なキャッシュ不足に陥ったとすれば財務危機を乗り越えられるか不透明になってきた。