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2008年のリーマンショック以降、世界の中央銀行は金利を合計637回切り下げ、12.3兆ドルを量的金融緩和策として金融市場に投入してきた。だが長期間継続したことで、効果は次第に限定的になり、マイナス金利と前例のない金融策をユーロ圏と日本で導入された。それも、効果は限定的のため、最後の手段として「ヘリコプター・マネー」実施の可能性が中央銀行、経済学者、市場関係者の間で議論されている。
ヘリコプター・マネーとは
ヘリコプター・マネーとは、経済学者のミルトン・フリードマン氏が1969年に「最適貨幣数量都その他の論文集」と題した論文の中で、一般家庭への給付金を支給する政策として用いた言葉である。量的金融緩和とヘリコプター・マネーの違いは、量的金融緩和は中央銀行が金融機関に資金を渡す代わりに国債や他の資産を受け取る。一方、ヘリコプター・マネーは、中央銀行のバランスシートには債務だけが増え、それに見合う資産が計上されないため、債務超過の状態になる。フリードマン氏は一回限りの限定された貨幣量の供給が重要であることを指摘している。
反対するドイツ連邦銀行
イェーンス・バイトマン総裁は、ECBが追加緩和策を取るたびに批判的な立場を強めてきた。ユーロ圏の中では、ドイツ連邦銀行だけがワイマール・ハイパーインフレと同様な状態が起きる可能性を恐れて金融追加緩和策に関しては慎重な態度を取ってきた。そのため、中銀預金金利のさらなる引き下げ、地方債の追加買い入れと資産購入プログラムの延長を含む3月の追加措置は行き過ぎであり、そのリスクを過小評価するべきではないとバイトマン総裁は警告を発した。
ヘリコプター・マネーに関しても、議論をすることは危険であると指摘、『ヘリコプター・マネーは天からお金が落ちてくるのではなく、中央銀行のバランスシートに巨額な債務を残し、最終的にはユーロ圏の国と納税者が負担することになる』と提唱した。
推進するECBとイングランド銀行
ECBのマリオ・ドラギ総裁やピーター・プラート専務理事は、国民にばらまくためのお金、ヘリコプター・マネーは金融策の手段の1つであると明らかにしている。『世界の全ての中央銀行が実施できる政策である。貨幣を発行して、国民に配布することができる。問題はそれをいつ実施するかである』と述べている。
英国の金融機構の元会長のサービスアデール・ターナー卿は、具体的な方法として、中央銀行が財政赤字を直接賄う財政ファイナンスで、政府は国民への給付金や減税、企業に対する減税、公共事業の拡大を実施することを提言している。
これまでタブーとされてきたヘリコプター・マネーの政策は導入の可能性が検討されている。導入されれば、中央銀行の信頼が損なわれることになる。またドイツはEUから離脱する可能性も出てくる。バイトマン総裁が述べるように『最終的に納税者の負担となる』の言葉が国民に重くのし掛かることになる。